PIXIV DEV MEETUP 体験レポ
PIXIV DEV MEETUP(PIXIVによる開発者向けの催し)の主要なライブセッションも5月14日に無事に終了しました。この記事では、そのときの感想も含めて感じたことやみなさんに伝えたいことをクリエイターの目線でまとめました。
PIXIVはユーザーのことを考えている
おそらくPIXIVや関連サービスを利用している方が運営さんに対して特に知りたいことは『ユーザーのことを気にかけているか』ということだと思います。
そう思ってしまう理由には、新しいサービスや変更がクリエイターの要望に合っていなかったり、使いづらいように感じたり、以前より悪くなったように思えたり、ということが挙げられるでしょう。
その点については私も気になっていました。そして催しに参加してわかったのは、PIXIVという会社は驚くほどユーザーのことを考えているということです。
とりわけ『創作活動がもっと楽しくなる場所を創る』というPIXIVが掲げている理念が、社内全体に行き渡っているように感じました。
失敗を認めて正しい方向に舵を取る
PIXIVがユーザーのことをちゃんと考えていると感じさせてくれたのが、FANBOXをリニューアルしたことに関する話でした。
FANBOXは金銭的にクリエイターを支援できる場所です。今では絵描きだけでなくゲーム開発者やVTuberなど様々な方がクリエイター活動のために活用しています。
この新しい試みは、少人数のクリエイターを招いて小さく始まりました。当時は月ごとに料金を設定する仕様でした。しかし、その結果クリエイターは『今月はあまり更新できないから、料金は取らないようにしよう』という風に考えるようになってしまいました。
これの結果は成し遂げたいことが達成できなかったという意味で失敗でした。FANBOXはクリエイターを支援する場所であって、コンテンツを購入する場所ではないからです。結果的にクリエイターは記事を書くために頑張るようになり、創作活動の負担になってしまいました。
そこでFANBOXチームは一から作り直すことにしました。月ごとの料金設定を廃止し、料金はすべての投稿に適用されるようになりました。バックナンバー機能も廃止しました。
どのサービスでも当てはまることですが、スタートからすべてが順調に進むサービスはありません。FANBOXも例に漏れず一度は躓きましたが、失敗から学んでクリエイターを支援するという目的に沿って舵を取ることができました。
FANBOXでは今でも、金銭的な支援を受けることがクリエイターの負担になってしまわないように、あらゆる方向からアプローチを続けています。
どこもかしこも人手不足
みなさんは大企業と聞くと、どんな会社を思い浮かべるでしょうか。トヨタやソフトバンクといった日本の企業を思い浮かべる人もおられるでしょうし、GoogleやApple、Microsoftといった海外の企業を思い浮かべる方もおられるでしょう。
このような大企業と比べると、PIXIVはそれほど大きな企業ではありません。社員はだいたい200人ぐらいで、一つのサービスに携わるのは十数人程度です。
絵描きにとってPIXIVは、世界中のクリエイターが集まる場所であり、大きいイメージがあります。そのため、漠然とPIXIVではたくさんの人が働いていて、1つのサービスを大勢のスタッフが運営しているイメージがあります。
しかし、今回の催しでPIXIVのあらゆるチームが口を揃えて言っていた内容は『人手が足りない』ということです。とにかく人が足りない、やることはたくさんあるのに人手が足りない、と言っていました。
例えばpixivSketchのチームは少数精鋭にもほどがある状況らしく、兼任も含めて10名程度で運営・開発しているそうです。
もしこの記事を見ている方の中で、PIXIVに興味があるエンジニアがおられたら、入社を視野に入れてもいいかもしれませんね。全体的にサーバーサイド・エンジニアや、プロジェクト・マネージャーができるエンジニアが求められてる印象でした。詳しくはPIXIVの採用情報を見てください。
PIXIVはピクシブ愛で動いている
pixiv.netはイラスト投稿サイトとしては世界最大規模です。膨大な量のアクセスが発生し、大量のデータが送受信されます。ジャパンカルチャーの創作活動の大きな部分を担っているとさえ言えるかもしれません。
どう考えてもPIXIVの運営にはその手の専門家が必要になってきます。さてPIXIVは人手不足とのことで、さぞかし専門知識の豊富なエリート集団なのだろうと思いきや、意外とそうでもないようです。
もちろんウェブ系の会社ですから相当ウェブ技術に詳しい方もいるようですし、今後は専門家も増えていくかもしれません。
とはいえ現状のPIXIVは一人の社員の言葉を借りると『ピクシブ愛でなんとかしている』という感じらしく、普通のエンジニアが大好きなPIXIVを盛り上げるために奮闘している印象でした。
PIXIV ≒ Github
PIXIVの社員たちと交流していて、私はどうにかクリエイターの見方や考え方を伝えられないか模索していました。やはりエンジニアと絵描きでは若干考え方が異なりますし、上手に伝えたいことを共有する方法が必要だと感じた のです。
まだうまく活用できていませんが、いくつか考えたものを、ここに二つだけ記しておきます。
一つ目はクリエイターにとってのPIXIV、エンジニアにとってのGithubに似ているというものです。もちろん本質や在り方は全然違うのですが、サービスとして本能的に求めているものが近いという意味で似ています。(それが機能していないと仕事にならないという程度には)
二つ目はクリエイターにとっての創作アプリ(例えばお絵かきソフト)は、エンジニアにとってのエディタに似ています。エンジニアがエディタに相当なこだわりを持っているように、絵描きもお絵かきアプリにはこだわりがあります。(VimかEmacsか争う程度には)
今回の催しでPIXIVがクリエイターのことをよく知ろうとしているということがわかったので、私のほうもよく知ろうと思うようになりました。
サービスのクローズを華やかに
新しく生まれるサービスがあれば、消えていくサービスがあります。PIXIVのサービスの中にも、愛されながらも終了に至ったサービスがあります。
お聞きした話で特に感動したのが、drawrをクローズするときの経験談です。drawrはPIXIVが運営する、ウェブ上でお絵描き・交流ができるサービスでした。
一般にサービスの開始は盛大で華やかなものですが、サービスの終了は打って変わって、寂しいくらいに一瞬であっけないものです。
drawrのクローズに関わったメンバーは、クローズをネガティブな雰囲気ではなく華やかなものにしたいと考えました。実際、例外的なくらいサービスのクローズに労力を使ったようです。
ただサービスを淡々と終了させることもできたなかで、あえて投稿作品をダウンロードできるようにしたり、新サービスであるpixivSketchに作品を移行させるツールを作ったり、pixivSketchの側にdrawrの書き味を模したドロー機能を追加したりなど、最大限に盛り上がる形で行いました。
私自身、当時のことをよく覚えています。drawrのユーザーでしたので、サービスの終了自体は寂しかったのですが、最後までサービスとユーザーを気にかけてくれたことがとても嬉しかったのです。
運営が奇跡と呼ぶpixivSketch
この記事でも何度か言及しているpixivSketch。このサービスについても興味深いお話をお聞きすることができました。
pixivSketchはお絵かきと交流ができるサービスです。pixiv.netと明確に違うところは、ウェブやアプリで描けるお絵かき機能が搭載されていることです。
これだけだと、あまり目新しさのないものに感じるかもしれません。絵を描けて投稿できるだけのアプリであれば、アプリエンジニアなら簡単に作れてしまうかもしれません。
それでもpixivSketchが特別なのは、サービスやアプリの設計が非常に良く、ユーザーが楽しくお絵かきと交流ができるように細部に至るまで調整されていて、なにより事実として驚くほど暖かいコミュニティが形成されていることです。
pixivSketchの一人は奇跡とさえ表現していました。大袈裟に思えるかもしれませんが、これらすべてを意図して新たに作れるかと言われると、誰にもできそうにありません。
この特別なpixivSketchを開発メンバーも、ユーザーも大切にしています。例えばアプリのホーム画面はパブリックタイムラインに固定されています。これによって新規参入しやすい雰囲気が保たれています。
作品にいいねが付くことは創作のモチベーションを保つ上で大切です。それを達成するためにはユーザーが率先していいねを押す必要があります。そしてpixivSketchはそれができるコミュニティが形成されており、お絵かきを続けやすい環境になっています。
ユーザーの中にはpixivSketchが収益化をしていないことに気づいており、運営資金について心配したり、金銭的な支援をしたいと考えたりしている方もいます。
この点についてお聞きしたところ、やはりpixivSketchから収益が出るということはないそうです。さらに今の状況を維持しているのには明確な理由があり、断言はできませんが、少なくとも当面は収益化をすることはなさそうです。
それにも関わらず、お話を聞く限り、pixivSketchを存続させる固い決意のようなものが伝わってきました。ピクシブという会社そのものが潰れない限り、ずっと存続されるような気がします。
こういった点でもpixivSketchは異例であり、運営・開発チームにとっても、ユーザーにとっても特別なサービスです。
エイプリルフールで出す可能性あった応援ボイス
pixivSketchアプリ版のドロー機能には、音声で応援してもらえる『応援ボイス』という機能があるのですが、この機能がエイプリルフールで出す可能性があったそうです。
というのも『応援ボイス』は、なんと言いましょうか、おふざけ機能に分類されるものなので、提案が通るとは発案者も思っていなかったようです。
しかし、なぜかすんなり通ってしまいました。結果として開発者にとっては作って楽しく、ユーザーにとってはドロー機能を触るきっかけとなり、無事にWin-Winとなりました。
圧倒的に海外ユーザーが多いVRoid
みなさんはVRoidをご存知でしょうか。VRoidはPIXIVが開発した誰でも簡単に3Dアバターを作れるツールです。VRoidは地上波のテレビ番組で使用されたり、有名な配信者が使用されるなど、どんどん広まっています。
VRoidは特に海外での人気が高いようです。利用者のほとんどが海外ユーザーといっても過言ではないかもしれません。
海外のユーザーが多い理由としては、単純に人口が多いからというのもあると思いますが、3DCGに対する親和性が海外の方が高いからだと思います。
日本は葛飾北斎から現代のアニメーションに至るまで、2Dとしての表現に重きを置いています。3Dが当たり前になったゲーム業界でも、レトロな表現を含む2Dゲームの人気は衰えていません。
とはいえ、確実に3Dの流れは来ており、イラストレーターや漫画家も3Dの技術を取り入れたり、アニメーションスタジオでも3DCGを取り入れて2Dと3Dを融合した新しい表現が生み出されています。
2Dのイラスト表現では世界に先陣を切っている日本ですが、3DCGの強い潮流が来たときにもそこにいるでしょうか。それで登場したのがVRoidです。
絵描きが3DCGソフトを初めて触ると、そのあまりの複雑さに諦めてしまいます。しかし、面白いことに、絵を描ける人が3DCGを使うと素晴らしい作品を生み出します。
つまり、絵描きが3DCGを諦めないようにできれば、才能ある3DCGクリエイターが続々と誕生するというわけです。
VRoidは非常に簡単にアバターを作れます。そのため挫折するリスクが減り、作っているうちにどんどん3DCGでの表現が上達していきます。
今のところ海外での人気が高いVRoidですが、ぜひ日本の絵描きのみなさんも積極的に使ってほしいです。もしかすると3DCGの才能が開花するかもしれません。その才能はこれからの時代に役立つものとなるでしょう。
年賀状で見つけた優しい世界
FANBOXは去年の末に年賀状の企画を行ないました。これはファンがクリエイターに向けてメッセージを送るというもので、合計で21547人のファンの方から、37955通のメッセージが送られたそうです。
FANBOXはこの企画をするにあたり、クリエイターを傷つけるメッセージが含まれないか懸念しました。そこで届いたメッセージのすべてに目を通しました。
特筆すべきことに、クリエイターが傷ついてしまうようなネガティブなメッセージはなかったそうです。そこには優しい世界がありました。
これには、そのメッセージが年賀状だったから、ということも関係していると思います。新年のお祝いをする年賀状でわざわざ傷つけるような発言をしたいと思う日本人はいないでしょう。
とはいえ、それを抜きにしても、クリエイターとファンとの関係は想像以上に温かいものだと感じました。
超難問だったクイズ大会
PIXIV DEV MEETUPのイベントの一つにクイズ大会がありました。開催されたクイズ大会は二つあり、一つはプログラミングの言語仕様についてのクイズで、もう一つはピクシブについてのクイズでした。
一言で言うと、とにかく難問でした。
四択クイズだったので全問不正解は免れましたが、きちんと理解して解けたクイズは片手で数えられるくらいだったように思います。
ちなみに優勝するとDiscord上のロールに『最強のマルチリンガル』あるいは『ピクシブ王』の称号が付与されるという、豪華(?)な賞も用意されていました。
海外の利用者が増えている
PIXIVは海外の利用者が増えています。VRoidもそうですが、サービス全体として増えています。私も海外の方にコメントをいただくことが多くなりました。
PIXIVもそれを受け、現地に赴いたり、サービスを海外の方向けに調整するなど動いているようです。
これは日本に住んでいる私たちにはあまり関係のないことのように感じるかもしれませんが、これからますます海外のユーザーが増えていくことを考えると、どうしていくのがよいのか考えてしまうところです。
まだ、PIXIVが具体的に何を提供するのかはわかりませんが、引き続き注目していきたいと思います。
まとめ
PIXIV DEV MEETUPに参加して、とても楽しくて学びのある時間を過ごすことができました。本当に貴重な体験になりました。
体験レポートはこれにて完結とさせていただきます。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
それでは、よい創作を。