破壊の芸術
芸術家は既存の概念の殻を破ろうと模索します。自分の想像を超える何かを見たいと切望します。そのような場面でしばしば使われる手法の一つが破壊です。この記事では芸術における破壊について考察します。
破壊とは
破壊の辞書的な意味は『壊すこと』です。壊すとは『ものの形を崩すこと』や『正常な働きや良い状態をダメにすること』です。ものの形を崩して表現するのはイラストの世界でもよく使われる技法です。
漫画では絵を崩すことでコミカルさを演出します。アニメではキャラの姿勢を崩すことによって自然さを生み出します。文字を崩すと雅な雰囲気になります。形を崩すことは身近なところで頻繁に行われています。
破壊されたものの美しさ
芸術に破壊を組み込むことにはピンと来なくても、破壊にされたものの美しさについて問われたら、きっとすぐに答えることができるでしょう。完成された城は当然ながら美しいものですが、廃墟となった城にも哀愁という美しさを感じるでしょう。
さて問題です。芸術家が廃墟のような雰囲気を作品に組み込みたい場合、どのようにすればよいでしょうか。破壊されたものを模倣するのは一つの手段です。もう一つの方法は作品を実際に破壊することです。
人為的な破壊と自然による破壊
考察を進めるために破壊を二つに分類してみます。
一つ目は人為的な破壊です。環境破壊はそれにあたります。その先にあるものは荒廃です。人は不要になったものや気に入らないものを破壊します。人の手による破壊は往々にして激しく、強い感情が伴い、荒々しいものです。
二つ目は自然による破壊です。形あるものであればやがて朽ちます。地球は自浄作用を持っているため、荒廃した土地でさえ人の手を離れればいつかは豊かな自然に戻ります。自然による破壊は静かで、深遠で、悠久の時を感じさせます。
破壊の活用例
人の手による破壊は激しいものを連想させるので、ロックやパンクなどを表現したいときに有効に活用することができます。例えばエレキギターは音を歪ませる、いわば音を崩すことによって激しい音を鳴らすことができます。
自然に作品を委ねるという手法は芸術の世界で用いられています。陶器をあえて破壊して自然の美を見出そうとしたり、キャンバスに絵の具を流すことによって自然の美しさを表現しようとしたりします。
概念の破壊
破壊は形ある物体にだけに留まりません。目に見えないものも破壊の対象になります。そのうちの一つが考えです。考え方が捉われてしまうと進めなくなってしまうことがあります。しかし自分の中の常識を破ると違う結果が見えてきます。
これは一種の主義としてあらわれることがあります。今までの表現方法に疑問を持った芸術家たちが印象派やキュビズムやミニマリズムなどといった美術を築き上げてきました。日本の侘び寂びもそのようなもののひとつです。
破壊を駆使する
どのようにして破壊を作品に活かすことができるでしょうか。スマートフォンで自撮りして歪み形のフィルターを加え、自分の顔をリスのように膨らませたことがあるかもしれません。これはいわば写真を破壊して面白いものを生み出している例です。
イラストにノイズを加えてレトロ感を出したり、わざと印刷とスキャンを繰り返して画像を劣化させて独特な雰囲気を作ることもできるでしょう。破壊による芸術はうまくいかないことが多々ありますが、うまくいくと劇的な効果を生み出します。
今まで見たことのないものを
これまで芸術における破壊について考察してきました。もし既存の表現に物足りなさを感じていたり、行き詰まっているように感じるのであれば、破壊という方法を試してみるのはいかがでしょうか。もしかすると、今まで見たことのない新しい表現を見つけることができるかもしれません。
それでは、よい創作を。