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Bメロ不要論

日本のポップス音楽は一般的にAメロ・Bメロ・サビという要素で構成されます。この記事ではBメロについて、その役割やBメロを省くメリットとデメリットについて考察します。

ポップス音楽の要素|Aメロ・Bメロ・サビ

Aメロ・Bメロ・サビの役割は概ね次の通りです。

  • Aメロ: 音楽に視聴者を招じ入れるのを助ける
  • Bメロ: 音楽の雰囲気を変えて劇的な展開の準備をする
  • サビ: 一番伝えたいものを一番盛り上がる形で提供する

このような役割があるため、一般的に次のようなメロディになります。

  • Aメロ: 比較的聴きやすい無難なメロディー
  • Bメロ: サビを引き立たせるために少し静かなメロディ
  • サビ: 耳に残りやすいキャッチャーなメロディ

Bメロはなぜ必要とされてきたか

BメロはAメロとサビを繋ぐ橋のような役割をします。サビで一番伝えたいことに、違和感を与えることなく移行させるのに重要な要素なのです。

例えば『僕は君が好きです』というラブソングを作るとしましょう。一番伝えたいのは、もちろん『君が好きです』という思いです。しかし、最初から「好きだ」と歌ってしまうのは押し付けがましく感じるかもしれません。

それで作詞者は次のような構成にすることでしょう。

  • Aメロ: 『僕』の日常シーンを描く
  • Bメロ: 『僕』の沈んだ心と『君』が僕を変えてくれたことを描く
  • サビ: 好きという気持ちを伝える

このようにBメロは情景描写と伝えたいことの溝を埋め、スムーズに一番伝えたいことを伝えられるように助けてくれる、とても便利なものなのです。

削るとしたらBメロが第一候補になる

私たちの日常はますます忙しいものになってきました。一曲数十分もあるようなクラシック音楽の時代とは違い、曲は短くキャッチャーなものが求められています。そうしないとシークバーで曲が飛ばされてしまうからです。

曲を短くする努力はすでになされてきました。一番飛ばされやすいイントロを短くしたり、2回目のAメロの繰り返しを省いたり、Bメロを短くしたり、といったことです。現在は一曲はおよそ4分ぐらいになっています。

このような時代のニーズがあるため、音楽家は先を見据えて『次に削るとしたらどこだろう』と考えるかもしれません。そこで、Bメロを省いたAメロ・サビ構成という考えに繋がっていきます。

Bメロ特有の問題|雰囲気の統一が難しくなる

BメロはAメロとサビを繋ぐ橋のような役割をするのと同時に、サビを盛り上げるためのスパイスのような役割を持っています。それは幸せなクライマックスの前に、少し悲しいシーンを入れる映画に似ています。

そのような役割があるため、Bメロはどうしても悲しいもの、切ないものになりがちです。全体的に暗い曲でBメロを若干明るくするという逆のパターンもあります。どちらにしても、Bメロは曲の雰囲気の中で、変わり者になりやすいということです。

ところで私たちは忙しい世界で生活しています。皆疲れています。悲しいメロディあるいは楽しいメロディを聞きたくないということもあるでしょう。それで、あえてBメロで変化を持たせる必要は本当にあるのだろうかという疑問が生じてきます。

変化を持たせないBメロには少なくともメロディ側のメリットは少ないです。それで、ここでもBメロを省いてしまってもいいのではないだろうか、という考えに繋がっていきます。

Bメロを省くメリット|製作者の負担が減る

音楽の製作者はたくさんの曲を多くの過程を経て作っています。

作詞者はAメロ・Bメロ・サビ構成の曲を2番まで作る場合、少なくとも6つのブロックを作らなければなりません。A・A’のようにそれぞれ2つに分けて作る場合、この数は倍になります。

各要素の役割を十分に果たしつつ、美しく覚えやすいキャッチャーな歌詞を、文字数を合わせて作らなければなりません。これはとても大変な作業です。

Bメロを省くことは製作者の負担を減らす良い方法になり得ます。労力を三分の一に減らせるかもしれません。もちろん、実際はそこまで単純ではないでしょう。Bメロの役割をAメロの後半あるいはサビの前半に持ってくる必要があるからです。

Bメロを省くメリット|アルバムのバランスが整う

今はあらゆる音楽をいつでも手軽に楽しめる時代です。そのため視聴者の耳は肥え、より強い刺激を求めるようになっているかもしれません。そこにさらに強い刺激を提供し続けようとしたら、いつかどちらかに限界がきてしまうでしょう。

Bメロを省くことの2つ目のメリットは、音楽情報のバランスを取る助けとなるかもしれないということです。Bメロを省くことにより曲そのものを薄味にして、音楽世界全体のバランスを取れるようにします。

逆説的ですが、Bメロを省くことによってBメロのような曲を作ることになります。つまり曲と曲を繋ぐ橋のような、あるいは曲を盛り上げるためのスパイスのための曲です。例えるなら、味噌ラーメンと醤油ラーメンの激戦区に、あっさりとした塩ラーメンを加えようと提案するようなものです。

Bメロを省くデメリット|普通に逆らうということ

音楽を作る上でも、普通であることはとても大切です。というのは、視聴者はほとんどの時間をほかの曲を聴くのに費やしているからです。ほかの曲にBメロがあるなら、当然今聴く曲にもBメロがあることを期待します。

また先に述べたようなBメロの重要な役割をどこに割り振るかという問題もあります。どうやってAメロとサビを繋げればよいのでしょうか。どうやって変化をつけたらよいのでしょうか。

とはいえ、このような普通に逆らうことから起きる問題や、Bメロの役割についての問題について、状況が徐々に変化しつつあります。

多様性のある音楽の時代

個人が手軽に楽曲を公開できるようになったことで、音楽はいよいよ多様性を増しています。さらにシンセサイザーなどの楽器やソフトウェアの発展により、今までになかった音楽のジャンルが受け入れられてきています。

ボーカロイドやボイスロイドは日本の音楽業界に大きな影響を与えました。ロックから演歌、クラシックに至るまであらゆるジャンルがボーカロイドによって歌われています。このような音楽的な挑戦に比べれば、Bメロを省く問題は小さく思えるかもしれません。

シンセサイザーの発展はダンスミュージックやエレクトロニカといったジャンルを生み出しました。それらは一定のフレーズを繰り返しながら、リズムやメロディを足したり引いたりしていって、曲を徐々に盛り上げていきます。

音楽の多様性に触れているならばBメロが省かれた音楽もほとんど抵抗なく受け入れられるでしょう。

音楽は変化していく

もしもこのまま時代の流れが変わらなければ、いずれBメロだけでなくAもBもサビもない音楽というものが生まれるかもしれません。しかしそれは未来の話であり、今はなんとも言えません。

さて、この記事ではBメロの有用性と問題点、省くメリットとデメリットを考察してきました。Bメロは不要だと言い切る内容ではなく、しかし時代のニーズに合わせて省いた方がよい場合もあることを考えました。

音楽は常に変化しています。そのすべてに付いていくことは非現実的です。しかし、できるならば新しい音楽を受け入れられる寛容さを持っていたいものです。