AIイラストに対抗するための具体的なアプローチ
AI(人工知能)に関わる状況は目まぐるしく変化しています。私は以前にAIイラストについての記事を書いたことがありますが、もう一度よく考えてみる必要性を感じました。前回の記事ではAIイラストとの付き合い方や展望について考察しましたが、今回の記事ではより具体的なアプローチについて考えます。
AIイラストの衝撃と現状
AIイラストが人々に与えた衝撃
AIイラストは驚きと好奇、そして一抹の不安とともに迎えられました。AIイラストが登場したばかりのころは人工知能らしい独特のアート感がありましたが、次世代になるにつれて人が描くイラストに極めて近いものを生成できるようになっています。AIが熟練した絵描きのような作品を一瞬にして生成する様を見て仕舞えば、これまでの価値観を揺るがしかねない脅威すら感じるかもしれません。まさにAIイラストは私たちの常識を塗り替えてしまったと言えるでしょう。
AIイラストを取り巻く現在の状況
AIイラストが登場して以来、継続的に人々から高い関心を集めています。否定的な意見は少なくなく、AIに自分のイラストを学習されることを好ましく思わない人が大半です。しかし、AIイラスト作品はSNSなどを中心に日に日に増加しており、AIを使用した有償のリクエストも受け付けている状況が見受けられます。
さらにAI技術が人々に与える衝撃は、イラストに限らず様々な分野で発生しています。例えば検索エンジンやスマホアプリといった一般人が触れやすいところに高度なAIが搭載されるようになっています。そのため、このようなAIが仕事を奪ってしまうのではないかと懸念したり、シンギュラリティといった人類存亡をかけたシナリオまで想定する人さえいたりいます。
絵描きが直面している困難
感情的なダメージ
さまざまな衝撃を各方面に与えているAIですが、絵描きには感情的なダメージを与えてしまう場合があるようです。AIがイラストを学習することにより、自分たちの絵や文化を盗まれているように感じるからです。
また、自分たちの描いたイラストよりもAIイラストが評価されてしまうことで、努力を否定されているように感じる人もいます。絵描きは多くの時間と労力をかけて一枚のイラストを書きますが、AIがイラストを生成するのは一瞬だからです。
混乱に巻き込まれる
多くの人はAIイラストか否かを見分けることができません。これは少なからぬ混乱を生じさせています。人が描いたイラストがAIイラストだと思われてしまうようなケースがあります。指摘された絵描きは傷ついてしまいます。
前回の記事で指摘したとおり、絵のお仕事は信用が大事なので商業としてのAIイラストはそれほど浸透していないようです。しかし、同人やアマチュアの世界ではAIイラストが確実に広がっています。AIイラストに活動の場を奪われたと感じる絵描きもいるかもしれません。
やってはいけない行動
絵描きは難しい問題に直面しています。とはいえ何とかしようと焦るあまり、間違った行動をとらないように気を付ける必要があります。例えば次のようなことが挙げられます。
・目標を見失う ・イラストを安売りする ・最新技術をすべて否定する ・行動を起こさない
一つずつ見ていきましょう。
目標を見失ってはいけない
絵描きは絵を描くのに何かしらの目標や目的を持っています。それを成し遂げるために日々イラストを描いています。ある人は自分の世界観を表現するために、ある人は楽しさを共有するためにイラストを描きます。息抜きのために描く人もいます。
AIイラストに反感を覚えるあまり目標を見失わないようにしましょう。自分がどうしてイラストを描くようになったのか時々思い出すようにして、その目標を忘れないようにしましょう。
イラストの安売りをしない
AIイラストに対抗してイラストの価格を下げるのは悪手です。手作りの一品もので大量生産品に価格競争するようなものだからです。素早く大量に作ることができることはAIイラストの強みであり、手作りのイラストの強みは別のところにあります。
人が描いたイラストには独創性や世界観、作品にかけた思いといったものがあります。それらの価値はAIイラストの登場で霞むどころか、むしろ際立ってきています。価格競争するのではなく、人が描いたイラストの価値を認め、適正な価格を設定しましょう。
最新技術をすべて否定する
AIイラストは混乱を招いているとはいえ、技術そのものが悪いものというわけではありません。正しく取り入れることができれば、新しいイラスト表現を生み出すことができるはずです。
技術革新に乗り遅れないようにしましょう。絵描きに馴染みのあるお絵かきアプリにすでにいくつかのAIが搭載されています。手始めにそれらの機能を試してみるのはいかがでしょうか。
行動を起こさない
性急に行動することは避けるべきです。状況を見極める冷静さが大切です。しかし、行動を起こすべき時に何もしないのは良くありません。すべての物事には適切な時が存在します。行動するべき時があるのです。
とはいえ絵描きの多くは黙々と絵と向き合うような人々ですから、自らの権利を主張しようしたり変化を求めて立ち上がったりすることは難しいかもしれません。そのような事情も踏まえつつ、個人でできるアプローチについて考えたいと思います。それから絵描き全体としてできるアプローチについて考えていきます。
AIと向き合う姿勢
AI技術そのものは敵ではない
まずAI技術そのものに対する考え方を整理します。誤解しないようにしたいのが、AI技術そのものが悪、あるいは敵というわけではないということです。AIはなるべくして生まれた兵器ではありません。同様にイラスト生成AIも本質的に悪いものというわけではありません。
同時にAIは非常に強力です。そのため悪用されると大きな影響を与えてしまいます。AIに適切な制限が加えられていないため、好き勝手使われてしまっているというのが現状です。
AIが成長しやすい世界
今のインターネットはAIにとって成長しやすい世界です。学習のためのデータがいくらでも手に入り、それらの権利を保護する技術はほとんど機能していないからです。
皮肉なことにインターネットは人々にとって都合の良いように作り上げてきたものです。人が心地よく利用できるネット環境はAIが成長しやすい環境という奇妙な関係が出来上がっています。これはAIを撲滅するよりも、ある意味で共存するような落とし所を見つける方がはるかに容易であることを示しています。
では、AIイラストが今後も存在するであろう世界で絵描きはどのように活動を続けていけるでしょうか。その点について考えてみましょう。
絵描きの生き残り戦略
独自性と芸術性の価値
まず人が描いたイラストの価値を再認識することが大切です。これは手作りの一品ものと大量生産品との関係に例えられます。手作りの一品ものは味わいがあり芸術的な価値を持っています。100円で売っている陶器でも十分に食事はできますが、伝統的な焼き物には独自の価値があることを多くの人は認めています。
人が描いたイラストにはAIイラストにはない価値があります。では一体いくらの価値があるのかといったことは今後みんなで話し合う必要があるでしょう。とはいえ、人が描いたイラストの価値を認めることは個人ができる重要な第一歩です。
物語性と世界観
どんなにAIが成長しても決して真似できない領域があります。それは人が描いたイラストには物語が存在しているということです。
どんなイラストにも描き始めたきっかけがあり、作者が意図していないとしても何かしらの思いが作品に込められていきます。イラストを描くための数時間、あるいは数十時間がイラストに刻み込まれていきます。
そして、そのような物語は共感を生みます。これはAIにはないアドバンテージです。AIは苦楽を感じることなく一瞬にしてイラストを描けますが、それがAIの長所でもあり短所でもあるのです。
人が描くイラストの物語性や世界観は意図しなくても反映されるものですから、これまで通り引き続きイラストを描いて発表し続けることは大切です。もし余力があるのならば、イラスト作画を配信したり、制作の裏話を記事に書くなどして、この長所を活かすのも良い戦略と言えるでしょう。
体験を提供する
体験したことは強く印象に残るものです。私たちは人間にしかできない形で体験を提供することができます。例えばお絵かき教室を開いたり展示会を行ったりすることができます。これは今のところAIには真似できません。
もちろんイベントを開く以外にも体験を提供する方法はいろいろあります。購入体験もその一つです。例えば、商品に感謝を示すメッセージカードを同封されていたら、買ってくれた人は嬉しく感じるかもしれません。そのような小さな気遣いや温かさが、体験を向上させるきっかけになります。
発信力を活かす
現状、絵描きはソーシャルメディアにおいて強い発信力を持っています。文字だけ、あるいは音声だけの発信よりもイラストは目に付きやすく、おすすめされやすいからです。この状況を生かしましょう。
可能なら自分たちが置かれている状況について慎重に、同時にはっきりと意見を述べることができるかもしれません。もちろん、AIイラストについて混乱している状況に対して、無理に発言して身に危険を招くようなことはしたくないという人がほとんどでしょう。それはそれで懸命な判断と言えます。
技術革新を活かす
AIイラストを否定するあまり、技術革新に乗り遅れないようにしましょう。もちろんこれは、最先端の技術を常に身につけておかなければならないという意味ではありません。
イラストの分野に使われているAIのうち、イラスト生成AIはごく一部に過ぎません。イラストの拡大、レタッチ、色補正など様々な工程でAIは活用されています。これらの機能が使用しているアプリに搭載されているなら、一度試してみることをお勧めします。
直接的な解決のためのアプローチ
対話と共同開発
ここからは、より直接的な解決のためのアプローチについて考えていきます。
人間関係で生じる問題の解決策は対話することです。そして残念なことにAIイラストについて言えば、まだ対話がなされていません。対話がなされるには人が必要であり、適切な時と場をセッティングすることが不可欠です。
代表者の選出
誰と誰が対話するべきでしょうか。それを決めるために代表者を選出する必要があります。最初から最高の人選で話し合いの場を設けるのは不可能ですから、まずこのような対話がなされることに賛同する人々から選出するようにします。
必ずしも一対一でなければならないわけではなく、商業的なイラストレーターとして発言する人、アマチュア絵描きとして話す人、AIの開発に携わっている専門家、AIを活用することに長けている人など、幅広い分野の人々で意見を述べ合うことができます。
代表者を選出する上で課題となるのは、代表者になることのリスクが大きいことです。非常に残念なことですが、物議を醸している問題について意見を述べる人は攻撃対象となりやすいのです。発言者の立場や意図に関わらず、誹謗中傷のメッセージが届くことさえあります。
ですから、代表者の選出するとともに代表者を守る策を講じることも必要でしょう。そして行われるはあくまで対話であり、相手を糾弾することではないことを徹底的に周知することも大切になってきます。平和裡に物事を進めることは問題解決の近道です。
話し合いの場をセッティングする
代表者が選出されたら、どこで話し合うべきでしょうか。これこそ代表者同士で決めることかもしれませんが、あまりに硬く考える必要はありません。最初はオンラインでの話し合いが無難と思えるならば、そこからスタートするのは道理にかなっています。
このような話し合いが周知されていけば、メディアが話し合いの場を設けてくれるかもしれません。とはいえ、今は当事者が自ら企画をすることも可能となっています。手段はいくつもあります。
着地点を模索する
対話が実現したとして、実際に何についてを話し合えるでしょうか。まず、それぞれの立場からAIイラストについての意見を述べることができます。実際に受けている影響、感じていること、また代表者として募った意見などを述べることができるでしょう。
当然のことですが、互いに攻撃的にならないように注意する必要があります。あくまで意見を述べ合う場であり、冷静に話し合いを進行させる必要があります。そのため、広い視野を持つ進行役を設けるのは適切なことです。
それから話し合いの落とし所を探していくようにします。例えば、絵描き側ならば、AIイラストの使用に制限を設けて欲しい、学習元を明示してほしい、学習を拒否できる仕組みを取り入れて欲しい、実際に使用されるならばロイヤリティを支払って欲しい、といった意見です。
すべての意見が通ると考えるのは現実的ではありません。AIの使用に関して先進的な企業さえ、まだどうするべきか決めあぐねている段階だからです。また実際問題としてAIの開発者や提供元は多くの場合海外にあるため、話し合いを実現することがまず難しいでしょう。
とはいえ、対話をして、お互いが求めていること、感じていること、そして着地点を模索することは非常に重要です。代表者が話し合って結論を下したという事実は人々に影響を与えます。そして、その話し合いをもとに次のステップへと進めるようになります。
クリエイターの権利保護に向けて
クリエイター同士で協力する
クリエイターの権利が保護されるには、何よりもまずクリエイター同士が協力する必要があります。とはいえ、絵描きは黙々と絵と向き合うのが主な作業であり、コミュニケーションを苦手としている人は少なくありません。ですから、無理のない仕方で進んでいくことが大切です。
地域の同好会やオンラインでのコミュニティなど、創作コミュニティに属することは協力関係のための第一歩となります。例えばSNSで同じクリエイター同士で繋がり合うこともコミュニティを形成していると言えるでしょう。
自分が所属しているコミュニティで今回のような問題について意見を述べ合えるようになるならば、クリエイターの権利保護に向けた重要な下地ができていることになります。特にコミュニティの運営者はこのような問題について話し合う場や機会を設けることで、クリエイターを守るための手助けができるかもしれません。
お絵かき文化を保護する
現在のように自由に創作をして自由に発表できるということは、当たり前のことではありません。世界的に多様性を尊重する動きが活発になっており、多様性そのものは大切なこととはいえ、作品の意図にそぐわない場合でも価値観を押し付けられるということが実際に生じています。
二次創作についてはどうでしょうか。二次創作は権利者の善意によって許可されている創作ですので、今後も可能かどうかは権利者に委ねられています。現在、AIイラストによって二次創作のルールが破られているケースが実際に生じています。このような状況が続くことで、絵描きたちの二次創作にどのような影響があるのかはまだわかりません。
では、お絵かき文化を守るためにどんなことができるでしょうか。文化の貴重さを知ってもらうことです。当たり前ではないこと、なくなってしまうことがあることなどを周知することが大切です。そして何より、自らが創作を続けることです。
創作を続けることの大切さ
AIに学習されるのを恐れて創作や創作物を公開することをためらう人がいます。AIは学習することで成長することは確かであり、学習元を断つことは有効な対抗手段を思えるかもしれません。しかし、総合的に考えるとそれは間違いです。
もし仮にみんなでイラストを公開するのはやめたら、AIの成長も止まるかもしれません。しかし、それはイラストを公開するという一つの文化が消えてしまうことを意味します。AIイラストの問題を解決するだけにこれほどの犠牲を支払う必要はありません。
むしろ楽しく創作を続けていき、これまで通り活動することがとても大切です。
まとめ
この記事ではAIイラストが与えた衝撃や絵描きが取るべき行動、問題解決に向けたアプローチや創作文化を保護することなどについて考えてきました。
自分にできることを一つ一つ行っていきましょう。AIイラストについて過度に心配する必要はありません。状況が変わっても、私たちクリエイターが取るべき行動は基本的には同じです。
引き続き積極的に楽しく創作を続けていきましょう。