AI画像生成の台頭と絵描きが今するべきこと
昨今のAI画像生成技術の進歩はめざましいものがあります。それらの技術は素晴らしいものとして注目される反面、さまざまな懸念点を内包していることが問題となっています。この記事では絵描きがAI画像生成とどのように向き合っていけるか考察します。
心配しすぎない
AI画像生成について否定的な意見が多く見られるのは事実です。このような情報が氾濫しているので、それを見た絵描きはAI画像生成について不安を抱くようになるかもしれません。
心配しすぎないようにしましょう。
その理由の一つが絵描きとしての価値は絵だけではないからです。上手下手で評価されるのは絵画コンクールぐらいなものです。実際は描き手の人柄や成長している様子、または仕事に対する信頼などが総合的に評価されます。
AIがいくら上手な絵を瞬時に描けるからといって、絵描きという存在が脅かされるわけではありません。
過小評価はしない
とはいえ、AI画像生成はこれまでのお絵かき支援ツールとは一線を画す存在であり、決して過小評価はできません。
AI画像生成が大きな騒動を生み出してしまったのは、倫理的・道徳的な問題点はもちろんのこと、AI画像生成そのものが非常に強力だからです。
その強力さゆえに、使い方次第では良い影響をもたらしますが、場合によっては悪い影響を与えかねません。
表面化している問題の例:絵描きの心情がかき乱される
自分のイラストを第三者に勝手にAI学習されることに不安や不快感を感じる絵描きは少なくありません。これは日本製のAI画像生成の登場で表面化した問題です。
そのように感じる理由の一つに、自分が時間をかけて培ってきた技術や個性を、AIに短時間で学習されてしまうことにあります。いわばAIに個性を盗まれているような感覚に陥るわけです。
表面化している問題の例:学習元となったイラストの作者の権利が侵害されている
AI画像生成は明らかに現役で活躍しているイラストレーターたちの絵も含めて学習しています。それは生成された画像にサインの痕跡が見えることからも明らかです。
この点に関してはすでに海外で訴えられており議論になっています。自分のイラストをAI学習に使われることを嫌い、AI学習を禁止する旨を表記するようになった絵描きたちもいます。
潜在的な問題の例:裁判が起きることでかえって絵描きの権利が脅かされる可能性
SNSなどでは上記の問題に関して抗議の声を上げている様子が見られます。それで解決に至るのが理想ですが、どうしようもないとなった場合には裁判に持ち込むことも可能性としてあり得ます。
絵描きは表現の自由のもとに創作をしています。それらの創作の中には一部の国では禁止されているような表現も含まれます。もしAI画像生成という創作に極めて近い技術が法的に抑制される事態になったら、そのことを逆手に法的な手段で表現の自由に介入しようとする人が現れるかもしれません。
潜在的な問題の例:AI画像生成が描いた絵の資産価値
AI画像生成が問題になってしまう一つの根本的な原因として、現在のインターネット環境ではイラストなどの著作物の正当な権利者を機会的に見分けることが極めて難しいことが挙げられます。
生成された画像はさらに輪をかけて著作者がうやむやになります。その画像に資産価値が付いてしまう可能性があるのは大きな問題です。
現在はNFTといったイラストなどの作品を資産とする方法が存在しています。著作者がうやむやなまま資産としての画像の正当な所有者が産まれてしまうという、ちぐはぐな状況が生じてしまいかねません。
既存のイラストレーターの仕事にはほとんど影響しない
逆に、心配されているほど悪い影響はないと予想されるものもあります。そのうちの一つはイラストレーターの仕事がAIに奪われてしまうのではないかという懸念です。
イラストレーターに限らず仕事は信頼が土台となっています。いくらAIが優秀な絵が描けるとしても、真っ当な依頼主であればすでに信頼を築いているイラストレーターにイラストを依頼することでしょう。そして信頼のあるイラストレーターは往々にして宣伝力もあるので、依頼者の目的を踏まえてもやはり仕事が減るとは考えにくいです。
さらにAI画像生成は懸念されているように、倫理的・道徳的・権利的な問題を解決できていません。そのようなグレーな状態のものに頼って自社のプロダクトを危険に晒すようなことは、賢明な人であればしないでしょう。
新しいイラストレーターにとってAIが脅威になるわけでもない
そしてこれからプロとして活動していく新人イラストレーターにとってAIが脅威になるわけでもありません。
私自身がAI画像生成を自作したり有名なものを試した上での結論は、AIを活用するにはそれなりに工夫と技術のいるということです。実際、AI画像生成が出てきてしばらく経ちましたが、実際のイラストに活用できている人はごく少数です。
とはいえ、AIを上手に活用できる人が今後出てくるだろうということは予想できます。だからといってAI画像生成を現時点でやっていない人が極端に不利になるということはまずないでしょう。
AI画像生成を使いこなす専門家が誕生しつつある
予想だったことが現実になりつつあります。それはAI画像生成を使いこなす専門家が誕生するということです。それら専門家は絵描きとは違った立ち位置で、AI画像生成を使って作品を生み出しています。
AI画像生成は瞬時に生成されるとはいえ、理想の作品を生成するのには経験やコツが要ります。さらにAI画像生成は一つの界隈を形成するので、生成された画像は他の生成された画像と比較されるようになります。
今はまだ過渡期ですが、いずれAI画像生成の作品と絵描きの作品を比べるのはナンセンスと呼ばれるようになることでしょう。あくまで同じ土俵で競い合う競技のように、AI画像生成というジャンルが確立されていくのが理想的です。
どうにもならないこと:AI学習禁止と無断転載
絵描きの多くが懸念している2つの点については、残念ながら対処のしようがありません。
無断転載はインターネットの黎明期から根強く残っている問題であり、現状のインターネット環境では根絶できないでしょう。なぜなくならないのか補足すると、ネットに掲載された作品がオリジナルか無断転載されたものなのか、機械的に見分けるのは技術的に困難だからです。
無断転載がなくならないのであれば、自分の意思に沿わないAI学習を完全に阻止することは不可能です。AI学習禁止と書くことはある程度の抑止力になるかもしれませんが、無断転載をプログラムで行われている場合には残念ながら無視されてしまいます。
これらの問題がなくならないのはネットそのものの潜在的な問題です。Web3.0が本格的に到来すれば状況は変わるかもしれませんが、現時点でできることはあまりありません。
ですから、今できる対策を取ったなら、それ以上心配するのはやめることを強くお勧めします。できないことを心配するより、できることを考えるほうが有意義だからです。
AI学習生成を有効に活用する方法
AI学習生成を有効に活用する方法についても考えてみましょう。
すでに実用的な手法を思いついて実践している絵描きもいます。一例を紹介します。
- 簡単にカラーラフ描く
- AI画像生成で肉付けする
- 崩れたところや意図しないところを修正する
- 再びAI画像生成で細部を描写する
- 修正する
この工程を何度も繰り返すことで作品をブラッシュアップさせていきます。
このように絵描きの場合は、自分が絵を描けるという強みを活かしてAIを活用することができます。AI画像生成だけで完成させるのではなく、あくまで補助ツールとして使うのはおすすめの使い方の一つです。
ほんの一握りしかできない理想的な行動
AI画像生成は有効活用できるとはいえ、プロが取り入れるには権利的な問題を抜きにしてもためらうでしょう。AI技術は日々進歩しており、次々と新しいツールが発表されているからです。このような状況で、一つのツールを制作ルーティンに組み込むのは高いリスクが伴います。
とはいえ、重要なのはAIツールではなくAI学習生成そのものです。
権利的な問題をクリアし、ツールの進歩に左右されない方法は現状では一つしかありません。AI学習生成できる自分だけの環境を作ることです。
具体的には、学習に適したプログラミング言語を実行できるようにし、必要なライブラリを準備し、機械学習に耐えるパソコンを導入して、権利的に問題のない画像を集め、脇目も振らず延々と学習と試行錯誤を繰り返すことです。
そこで蓄積したものは制約なく使用できるので、それを活用した制作手法を確立していけば他にはない表現方法を手にすることになります。
これは誰でもできることではありません。まずお金がかかります。成果が保証されているわけではありません。時間もかかりますし、学習コストも低くはありません。
それでも誰よりも早く決断し行動してしまう人だけが、この混迷したAI画像生成の黎明期で良い結果を勝ち取れるのだと私は思っています。
まとめ
これらのことをまとめると、AI画像生成について心配しすぎる必要はないということ、仕事への影響は少ないだろうということ、有効活用するにしても無理にしがみついていく必要はないということです。
確かに問題点はありますが、それは根本的に解決できるものではありません。論争や議論からは離れて、平穏を保つのが賢明です。
そして、状況に恵まれていて取り組む気概がある方にはぜひ、自前のAI画像生成にいち早く取り組んでいただき、新しい表現を生み出していって欲しいです。
たとえ、この記事に書いたことがことごとく間違っていたしても、絵を描く楽しさやそれを共有する喜びはなくなりません。
これからも、お互い創作を楽しんでいきましょう。