みがらいあの舞台が現代である理由
みがらいあの世界は独特です。その世界はどのようにして出来上がったのでしょうか。この記事ではみがらいあの礎となっている世界観について記したいと思います。
現代を舞台にする難しさ
みがらいあは現代が舞台です。中世西洋を舞台にしたファンタジーでもなければ、未来を舞台にしたサイエンス・フィクションでもありません。現代の物語です。
現代を舞台にするのはとても難しいことです。なぜでしょうか。それは嘘が効かなくなるからです。
例えば、ヒロインが絶対絶命のピンチに陥ったとしましょう。ファンタジーなら主人公の魔法の力が目覚めて助けることができるかもしれません。でも、現代物ではそれができません。読者が納得する程度のリアリティを持たせることが必要です。
人物や世界の描写にも難しさが伴います。物語に東京タワーを出したいとしましょう。東京タワーの高さは333メートルとされていますが、もし調べずに『高さは400メートル』などと書こうものなら、この作者は東京タワーの高さも知らないと思われてしまいます。
舞台を現代にした理由は『憧れ』
このように現代を舞台にするには相応の難しさが伴います。それでもみがらいあは現代を舞台にしました。
理由は『憧れ』です。
みがらいあには多くの憧れが込められています。そしてみがらいあの舞台を現代に設定したのはロールプレイングゲーム『MOTHER2』の舞台が現代だったからです。MOTHER2に憧れているので、尊敬を込めて真似をしているのです。
MOTHERの舞台が現代である理由は『MOTHERの気持ち』という記事でこう説明されています。引用します。
魔法だとか騎士だとか中世だとかいうものに 最初に道を譲ってしまったら いろんなことを表現できないと思ったんです。 それで、まずは舞台を現代にした。
当時のRPGの多くは剣と魔法で世界を救うというものでした。でもMOTHERはそうしませんでした。ゲームの根幹をなす動機の部分を借り物にすることなく、自分たちの伝えたい、表現したいものを作りました。
私はMOTHERの作り手としての考え方にとても感動したので、共感と尊敬を込めてみがらいあの舞台を現代に設定しました。
剣と魔法に代わるもの
みがらいあの根幹にはゲームがあります。多くのゲームは敵と戦います。ファンタジーでは剣や魔法を使ってモンスターと戦います。そうやって少しずつ強くなり、最後の敵を打ち倒してエンディングとなります。
剣や魔法のない世界ではどう戦えば良いでしょうか。MOTHER2の剣に代わる武器はバットやフライパンで、魔法に代わる力は超能力でした。本当にユニークな解決策です。
MOTHERに強く影響を受けたポケットモンスターは、ポケモンを指揮してバトルするという形を取りました。武器はポケモンの身体能力と技です。ポケモンも大好きな作品です。
小説家になろうという小説投稿サイトでは『ローファンタジー』に分類される作品があります。舞台は現代ですがモンスターやダンジョンが発生します。その際の武器は現代の重火器やスキルと呼ばれる特殊能力です。
子どもが大人と対等に闘えるもの
では、みがらいあは何を武器に戦うのでしょうか。
少年少女が大人たちと対等に闘えるものは限られています。野球やサッカーなどのスポーツや将棋・チェス・囲碁といったもの、ピアノやバイオリンなど音楽や芸術の分野ぐらいです。その多くはルールの中での戦いです。
そうするとファンタジーのように世界を救うというような国家レベルでの激動は書くことができません。
現代の子どもたちが世界を救う物語を真っ正面から書こうとしたら、少年少女が世界規模の敵と闘える武器は一体何でしょうか。
私は現代社会を脅かしかねないある分野を連想しました。サイバー戦争です。専門家が警鐘を鳴らしている分野でもあります。
コンピューターの分野であれば子どもが大人と闘えるのではないでしょうか。事実は違うかもしれません。でもある程度のリアリティを持たせることができます。
それでみがらいあはコンピューター技術を武器にして闘うハッカーとなったのです。
ハッカーの物語は説明しづらい
しかし、物語を作り込むうちに登場人物がハッカーという設定は難しすぎることに気づいてきました。それと同時に物語上の魔法の便利さに気づかされました。
ハッカーとは何でしょうか。そこから説明する必要が生じます。ファンタジーであれば『剣と魔法の世界』と書けば、ほとんどの日本人は世界観を把握できます。しかし『ハッカーの攻防戦』と書いても、ピンとこない人は少なくないのでしょう。
逆にコンピューターに詳しい方に対して説明するのは、さらに厄介です。例に挙げた東京タワーの高さのように、コンピューター技術に関し適当なことを書こうものなら、詳しい方から指摘を受けてしまうでしょう。フィクションの範囲内での誇張なら良いのですが、中途半端な設定ではリアリティにに欠けてしまいます。
さらに綿密に設計する必要が生じてきました。
みがらいあの闘い方
みがとらいあは一見すると普通の少女です。そんな二人が大人たちと対等に闘うのですから、それなりの理由が必要になります。その理由の一つはらいあの特殊性にあります。詳しくは『みがらいあの本当の意味』という記事に書いています。ネタバレを含みますのでご注意ください。
かつて日本人の天才ハッカーである下村努が伝説のハッカーと呼ばれるケビン・ミトニックとを追い詰めたという実話が存在しました。同じような攻防戦を描くのはどうでしょうか。現代はセキュリティの重要性が浸透していますので、難しいと言わざるを得ません。
現代の高度なセキュリティをかいくぐる方法はあるのでしょうか。あります。
人との繋がりから情報を奪うソーシャルハッキングという手口は今でも有効です。物理的に情報を傍受するサイドチャネル攻撃も有効です。しかしそれらを説明するのは難しいし、逆にきちんと説明できなければ物語が破綻してしまいます。
そこで役に立つのがいわゆるチート能力です。
チート能力の使いどころ
チート能力とは主に異世界ものの創作で登場する、主人公に付与される桁外れの強さの能力のことです。敵からのダメージが全く効かなかったり、成長力が異常に高かったり、強すぎるくらいの能力です。
チート能力は規格外に強いため、使いすぎると話をしらけさせてしまいますが、上手に使えば読者をワクワクさせることができます。途方もなく不利な状況を圧倒的な力で逆転させるストーリーは、陳腐かもしれませんが分かりやすくて爽快です。
これをみがらいあに適用するとしたらどうなるでしょうか。らいあはある意味チートですがここでは置いておきましょう。例えばものすごく力が強いとか、頭が良いとかそういうチートで能力です。頭脳戦で闘うヒロインもかっこよさそうです。
私はみがとらいあの能力値を世界ランカーレベルに設定しました。甲子園に出場する高校生のように、たゆまぬ努力と才能と環境があれば不可能ではないレベルの能力です。これでギリギリのラインでリアリティを確保することができました。
しかし、それだけでは大人たちを相手に闘うことができません。増して世界を救うことなどできません。能力は現実的な範囲での限界まで引き上げてしまいましたので、残るは武器しかありません。
武器をチート化させる
武器をチート化させるとは、ものすごく性能の良いコンピューターを使わせると言うことではありません。最高峰のコンピューターを持っていても、ハッカーとして強くなるわけではないのです。
ハッカーの強さは情報を得て解析し、侵入するなり修正するなり目的を達成することです。では、世界最強の侵入ツールを持っていれば良いのでしょうか。多少の強引さに目をつぶればそれもありかもしれませんが、まだ説得力に欠けます。
私はここでバックドアに注目しました。バックドアとはIDやパスワードを使わずに内部に侵入する機能のことです。意図してバックドアが設けられることもあれば、意図せずバックドアが存在してしまう場合もあります。
みがらいあの世界では国家を震撼させかねないレベルのバックドアが存在しています。それを公表すると世界が混乱しかねないため、秘密裏に修正が進められている状況です。
そして、みがたちはその秘密のバックドアを知っています。みがだけでなく、一部の世界レベルのハッカーたちも知っています。そしてバッグドアを設けた人物こそがいわゆるラスボスです。
いよいよ話が難しくなってきました。
みがらいあの課題
私は憧れから現代を舞台にしました。そして子どもが大人と対等に闘える分野としてハッカーを選びました。それぞれ明確な意図がありました。それでも多少の後悔があります。
ハッカーを説明することの難しさ、リアリティを持たせるための苦労、みがとらいあを特別な存在にするための理由づけ、どれを取っても創意工夫が求められます。
他にも難しさがあります。ハッカーの攻防戦は黙々と進むため、盛り上げる工夫が必要です。なぜか状況をうまく解説してくれるハッカーや、主人公や敵の強さを引き立てるモブキャラを配置する必要もあるでしょう。
ハッカーの強さはどのように表せば良いのでしょうか。段位を設けるべきでしょうか。例えばハッカーランキングやクラッキング危険度などの指標が有用でしょうか。
ハッカーの攻防戦の優劣はどのように伝えれば良いでしょうか。スポーツではスコアボードがあるので戦況がすぐに伝わります。バトルものでは分かりやすいアクションがあります。ゲームではHPがあります。ではハッカーは戦況をどう伝えればよいのでしょうか。
みがらいあには課題があります。
とりあえずは日常を
この記事ではみがらいあの舞台が現代である理由について書きました。それは憧れによるものであり、また『子どもと大人が対等に闘える世界』を描くためでもありました。
そのために選んだのがハッカーであることや、それを分かりやすく伝えることの難しさについても書きました。適度なリアリティを持たせる工夫についても書きました。
今のところみがらいあは主にほのぼのとした日常を描いています。舞台設定やキャタクター設定はきちんと踏まえていますが、それらを表には出さず、ただ和やかなやりとりを描くようにしています。