Skip to content

泣き虫魔王と鈴木勇者

異世界召喚。

僕もまたそれに巻き込まれた。

その理由は、僕の本名が『鈴木勇者』だから。

今だに腑に落ちない。

そのせいで今まで何千回と異世界に呼ばれた。

『万年勇者』。

それが僕のあだ名だ。

たくさんの異世界の中で、僕が一人だけ倒せなかった魔王が存在する。

それが『最強の魔王』。

またの名を『泣き虫魔王』だ。

鈴木勇者は異世界に召喚されたことを感じ取った。

すぐに劣悪な世界だとわかった。

多くの奴隷が虐げられている。

どの路地も異臭が漂い、罵声と悲鳴が飛び交っていた。

最悪な国。

というのが第一印象だ。

僕は住民に見つかった途端に身ぐるみを剥がされた。

何度も世界を救った僕にとって敵を屠るのはたやすいが、住民を傷つけるのはためらう。

やがて貴族に買われ、使用人の下で働く奴隷になった。

奴隷の仕事は過酷で報酬はないに等しく、同じ奴隷でさえ僕を貶したり食べ物を盗んだりした。

しまいには貴族の余興に毒を飲まされ、瀕死の体のまま放り出された。

他にも多くの凄惨な目にあった

救いようのない世界。

そう思ってしまった。

この世界に救われる価値が本当にあるのだろうか。

みんな堕落しきっていた。

子供でさえ汚い言葉を吐いて、僕に石を投げつけた。

ついに僕はただ目障りという理由で処刑されることになった。

この世界に勇者はいらない。

僕は落胆し、処刑台から逃げなかった。

ついに死に処されるという瞬間。

まばゆい光と共に、処刑台と全ての武装が消滅した。

「……見ておったぞ」

小柄な少女がそばに立っていた。

褐色の肌に神々しいマントを羽織っている。

頭から生えるツノが彼女が人外であることを知らしめていた。

少女は目に涙をいっぱいにためて吠えた。

「我は最強の魔王! マオである!」

彼女が杖を一閃すると、今度は光と共にあたりの住居が消滅した。

住民は畏怖し、貴族は青ざめた。

この小さき魔王にかかれば、財産も命も一瞬にして消える。

あたりが静かになってから、少女は僕に語りかけた。

「……ずっと見ておったぞ。お主、奪われるのをわかっていながら、食べ物を分け与えていたな。他の奴隷が死なないように、わざと毒を飲んだな。他にも」

堰を切ったように語り出し、その頬には涙が伝って地面に落ちた。

悔しそうに目を瞑ると、大粒の涙がポロポロと溢れる。

彼女は赤くなった目を開いて、この地の人々に目を向けた。

「いい人間が一人でもいれば、見逃してやろうと思っていた」

魔王の肩は震えている。

「だが! そんな人間は一人もいない! この者が死んでしまったら、お前たちを全員消してやるところだった!」

彼女はそっと僕に触れた。

涙の一滴一滴が、僕の額に落ちる。

「この人間は我が攫う」

少女は最後に振り返り杖をついた。

突如凄まじい地鳴りがして、貴族と貧民を隔てていた地面が消失した。

そこには底なしの谷が生まれた。

谷は東の果てから西の果てまで続いている。

「さらばじゃ愚かな人間ども」

魔王はそう言い捨てる。

それから僕を抱えて人間界から消えた。

目が覚める。

どうやら僕は気を失っていたようだ。

手足が包帯で巻かれていることに気づく。

「起きたか!」

魔王の声がした。

椅子から立ち上がり、駆け寄ってくる。

「大丈夫か? 痛むか? 何か欲しいものはないか」 「魔王……さまが手当を?」 「うむ! 魔王領は医術も発達しておる。怪我もすぐに治るのだ!」 「……ありがとうございます」

この世界に来てから初めて感じた優しさに、目頭が熱くなった。

泣き虫の魔王様に感化されたのかもしれない。

その様子を見て魔王は慌てた。

「痛いのか! すぐに医者を呼んでくる!」 「いえ、そうではなく……」

僕は周りを見回した。

目に入る調度品は人間界のそれとは違う。

ここは魔王領、あるいは魔界と呼ばれる場所のようだ。

魔王は明らかに狼狽した。

「う……。勝手に連れてきてしまってすまない」

なぜか謝られてしまう。

悪いことをしてしまった子供のように、項垂れている。

「だ、だが! 魔王領は良い場所だ! 寝床もある! 美味しい食べ物もある! みんな気のいい奴だ!」

どうやら僕が人間界に未練を抱いているのではないかと、懸念しているようだ。

僕は頭を振る。

「違うんです。僕を助けてくれてありがとう。魔王さま」

「!」

感謝を告げると、魔王は目を大きく開いた。

途端に機嫌が良くなる。

「ならば良いのだ!」

それから彼女は部屋の中央に立ち、くるりと優雅に回った。

「まだ自己紹介をしてなかったな!」

さっき公衆の前で名乗っていたことは黙っておこう。

「我の名はマオ! 最強の魔王だ!」

興味津々と言った様子でこちらを見つめてくる。

「僕の名前は鈴木勇者、勇者だ」

「ユウシャか! 良い名だな! うむ!」

マオは満足げに頷き、次第に首が傾く。

「……勇者? 勇者! まさかお主、勇者なのか!? 我を倒すのか? わ、我は最強の魔王だぞ……」

勇者は魔王を倒す者というルールは、この世界でも同じらしい。

マオはまた泣きそうな顔でぶるぶると震えている。

勇者が魔王を倒す宿命を負っているとして。

こんな優しい魔王を倒すべきだろうか。

「魔王さま。僕は勇者ですが、魔王さまを倒すことはしません。こんなに優しくて素敵な魔王さまを倒す勇者がどこにいるのでしょうか」

「……うむ、うむ! なら良いのだ!」

マオはホッとしたように大きく息を吐いた。

それから頬を染めて小声でつぶやく。

「……素敵だなんて初めて言われた」

数日後。

怪我が治った僕をマオはしきりに案内したがった。

「こっちには服屋があってな! あっちには食べ物屋がある!」

「いい街ですね」

「うむ!」

マオはごきげんだ。

「ところで魔王さま」

「なんだ?」

「時間を僕のために使って大丈夫なのでしょうか。公務が忙しいのでは」

するとマオは少しむくれて言った。

「わ、我のことを暇人だと言っているのか! 我の部下はみな優秀! すべての仕事を完璧にこなすゆえ! つまり……」

「つまり?」

「つまり……うぅ」

また泣き出しそうになったので、僕は慌てて慰める。

マオとの接し方にも慣れてきた。

「ぐすっ、ユウシャは我とお出かけするのは嫌か?」

「嫌じゃないですよ。むしろ、とても楽しいです」

「本当か! うむ!」

元気を取り戻したマオは、僕の手を引いてあちこちを案内した。

僕たちの様子を見ていた魔物がマオに耳打ちした。

魔物の言葉だったので、僕にはわからなかった。

しかし、マオは顔を赤くしてしまった。

どうしたのか聞こうとすると、そっぽを向いてしまう。

それから、ぎゅっと手を握られた。

僕のことはすんなり魔物たちに受け入れられた。

今ではすっかり溶け込んでいる。

魔物の切り盛りする居酒屋で働きながら、休憩時間に集まってきた子供達に、お話を聞かせる。

以前の世界での経験を脚色して話しているだけなのだが、これがなかなかウケが良い。

ちなみに、言語の習得はなんとかなった。

以前の世界で習得していた言葉が、この世界の魔物の言葉に近かったのだ。

僕はふと、聴衆の中にマオがいることに気づいた。

キラキラした目で英雄譚を聞いている。

この物語は魔王を倒してエンドだったが、アドリブで魔王と和解して平和に暮らす話にした。

ちょっと強引だった気がしないでもないが、マオが満足げだったのでよしとする。

仕事が終わると、マオが待っていてくれた。

「ユウシャ! お仕事ご苦労であった!」

「待っていてくれてありがとう」

「うむ!」

ごきげんなマオを見て、話を切り出すなら今だろうと決める。

「魔王さま」

「うむ?」

「今日の給料で、自分で宿を借りられるようになりました。ですので、来月から……」

「ならん!」

マオは急に駄々をこねはじめた。

僕は話を続ける。

「魔王さまのご親切に、とても感謝しております。だからこそ、いつまでも魔王さまのお世話になるわけにはいきません。ですから……」

「ユウシャは我と一緒は嫌か? 我は、我は……」

マオの言葉が尻すぼみになる。

いつもと様子が違う。

その目には涙をいっぱいためている。

でも、一生懸命我慢しているように見える。

僕は膝をついて視線を合わせ、マオの涙を拭った。

「僕はいつまでも魔王さまのお側にいたいです」

「ユウシャぁ……」

マオは近づいてきて、僕の胸にポフっと収まった。

それから僕をぎゅっと抱きしめる。

「魔王さまは魔族の王で、僕は勇者ですが、ここでは平民です」

「ちがう! ユウシャは、ユウシャは……」

僕はそっとマオの頭を抱き、勇気を与える。

マオははっとして宣言した。

「ユウシャの語りはおもしろい! 今日をもってユウシャを宮廷語り部に任命する! 存分に我に仕えよ!」

「仰せのままに」

凛々しい言葉とは裏腹に、マオは僕から離れようとしなかった。

宮廷仕えになってからしばらく経ったころ。

マオは不機嫌だった。

マオの魔王としての実力は本物なので、勢い任せて扉をしめて壊してしまうこともあった。

それを必死に宥めていたのが四天王たち、人間の国に例えるなら宰相たちである。

「お聞きください、魔王さま。この者には我々にない才を持っています。その知恵を借りることに、魔王さまも同意してくださったではないですか」

「ふん! そう言って、我とユウシャの時間を奪うのだ! もう知らん、寝る!」

「あぁ、魔王さまぁ〜」

そう言い放ってマオは部屋に閉じこもってしまった。

顔を見合わせる四天王たち。

そして助けを求めるように僕の方を見た。

「はぁ、わかりました。僕がなんとかしてみます」

マオの部屋の近くに行くと物に八つ当たりしている音が聞こえる。

それとともに、

『馬鹿! 馬鹿! 馬鹿! 馬鹿! なんなのだ! 我だって! もっとお話ししたいのに!』

などと声が聞こえてきた。

『あんなに、仲良さそうに……胸がもやもやする……いつも一緒にいてくれるって言ったのに……ユウシャのばかぁ』

それからすすり泣く声が聞こえてきた。

コンコン。

ノックをすると、ガタっと音がしたが返事はない。

「僕です、ユウシャです」

「……」

それでも返事はなかった。

「扉越しにでもいいので、聞いていただけませんか」

僕は語りかけながらも、次の言葉を探した。

どう慰めるようか、そっとしておいた方がいいのか、強引に連れ出した方がいいのか。

「むかし、むかし」

すっと出てきたのが、とある物語だ。

最低最悪の国で暮らした少年の話、それを救ってくれた泣き虫の魔王さまの話。

どこまで語っただろうか、室内からはスゥスゥという寝息がかすかに聞こえてきた。

僕はそっとその場を後にした。

我の名前はマオ。

最強無敵の魔王だ。

我は老いもせず、敵もおらず、ゆえに常に孤独だった。

我の心の唯一の拠り所だったのが、人間の書いた物語だった。

お気に入りだったのが、ヒロインが王子さまに助けられて結ばれる話だ。

我もいつかは、と思わなかったわけでもない。

でも人間たちを観察していて、期待は何度も裏切られた。

どんどん堕落していき、私利私欲に溺れていったのだ。

それでもどうしても滅ぼせなかった。

物語のような人間がいつか現れるかもしれない。

そう心のどこかで思っていたのだろう。

そんなある日、他とは明らかに違う人間を見つけた。

まるで物語の中にいるような優しい人間だった

我は彼のことが気になり、ずっと見ていた。

いつか我を迎えにきてくれるのではないか、そんなありもしない想像もした。

けれど、事態はどんどん悪化していき、あまつさえ処刑されそうになっていた。

我は自分を抑えきれなくなり、その人間を攫ってきた。

彼は人間で、我は魔王。

魔王は人間に恐れられる存在だ。

否定されるのが怖かった。

けれど、人間は我を受け入れてくれた。

ユウシャの話は聞いていて心地よく、ユウシャの側は安げる場所だった。

ずっと一緒にいてくれると言ってくれた時は、心臓が止まるかと思うくらい驚いたし、嬉しかった。

ユウシャが魔王領で受け入れられていくのを見るのは嬉しい。

でも、少しもやもやする。

特にあの胸の大きな四天王と話しているところを見ると、無性にイライラした。

我は最強だが、同時に成長もしない。

自分の体はいつまでたってもちんちくりんだ。

このままではユウシャが盗られるのではないかと、気が気でない。

頭の中はユウシャのことでいっぱいだ。

ユウシャに会いたい、話したい、抱きつきたい、でも顔を合わせられない、恥ずかしい、自信がない。

さっきも四天王とユウシャのことで喧嘩をしてしまった。

扉に背を預けてうずくまっていると、ユウシャがきてくれた。

嬉しかったけど、合わせる顔がなかった。

何を話せばいいのか分からなかったから。

自分の気持ちがわからない。

そんなとき、ユウシャは一つの物語を話した。

マオとユウシャの物語のようだった。

我の気持ちは落ちつき、自然に眠りについた。

その日、夢を見た。

夢の中で、我は物語のヒロインのように、ユウシャと結ばれて、幸せな日々を送っていた。

目覚めた時にはもう分かっていた。

自分の気持ちに気づかないふりはできないと。

「魔王さま?」

ササッ

気配を感じて、声をかけるが、逃げてられてしまう。

あの日以来、マオに避けられるようになってしまった。

対応を間違えたのかもしれない。

じー……

マオは物陰からそっとこちらを伺っている。

こんな調子がしばらく続いている。

僕はマオの想いに気付いており、僕なりに覚悟を決めたわけだが、これでは一向に埒が明かない。

しかし、強引に合おうとしてもマオは最強の魔王だ。

簡単に逃げられてしまう。

どうしたものかと考えていると、四天王の話し声が聞こえてきた。

「千年祭の進み具合はどうかしら?」 「順調ですよ、えぇ」 「みんな張り切ってるでなぁ」

千年祭とは、魔王領が千年ごとに祝う大規模なお祭りのことだ。

考えることをしているふうにつぶやく。

「千年祭かぁ。どんなお祭りなんだろう。だれか一緒に周ってくれないかな」

白々しかっただろうか。

首をふりつつ、部屋に戻ろうとすると、服の裾を掴まれていた。

「……我が」 「魔王さま?」

振り返るとマオがちょこんと立っている。

「わ、我が千年祭の案内してやろうっ! 光栄に思うがいい!」

そう言うだけ言って、走って逃げてしまった。

千年祭の当日。

ここ数日、マオは忙しそうだった。

侍女たちがひっきりなしにマオの部屋に出入りしていたのを目にしている。

特に待ち合わせもしていないので、祭りの様子を見に行こうかと席を立ったところ、声をかけられた。

「ユウシャ! 待たせたな!」

振り向くと、おめかししたマオがやってきた。

そこはかとなく甘い花の香りがする。

「魔王さま、今日は一段と綺麗ですね」

「そ、そんな綺麗だなんて……」

耳まで赤くしつつも、逃げることはない。

それどころか僕の手を取って、ずんずんと歩き出した。

「や、屋台を見てまわろう! 魔王領特産の工芸品がおすすめだぞ!」

マオはいつもよりお喋りだった。

僕のことを気遣っていたのかもしれない。

あるいは……

楽しい時間はあっという間に過ぎ、日が暮れてきた。

大きな篝火が見える静かな丘までいき、二人で座った。

マオは身を寄せるように座り直す。

僕はその手をそっと掴んだ。

マオは肩を震わせるが拒まない。

それから、トンと頭を僕の肩に預ける。

話すなら今だろう。

「魔王さま」

「ユウシャ!」

声が重なった。

マオは俯いており、どんな表情をしているのかはわからない。

しかし、僕の声が聞こえていないくらい緊張しているのは伝わってきた。

僕は口をつぐみ、次の言葉を待つ。

「……ずっと前から言いたいことがあった」

ゆっくりと話し出す。

「逃げたりして、すまん……でも、ユウシャ、ユウシャっ!」

声はうわずり、途切れ途切れになる。

ようやくマオは顔を上げた。

頬を真っ赤に染め、その瞳は溢れんばかりの涙を溜めている。

今にも感情が爆発しそうな、そんな表情。

「……ユウシャ、お願いがある、聞いてくれるか?」

「……はい」

艶やかに整えられた髪、長いまつげ、うっすらと潤んだ唇、花の香り。

彼女の顔を間近でみると、今日のためにたくさんおめかししたことが伺えた。

僕の方を掴むその手から、マオの震えが伝わってくる。

「我の、マオの、マオのこと……」

声が掠れる。

流すまいと我慢しているその涙は、すでに流れてしまっていた。

その雫がぽたりぽたりと僕の膝に落ちる。

「……名前で、呼んで、欲しいのだ」

「…………」

なるほど。

それがお望みとあらば。

「マオ」

「〜〜〜〜〜っ」

囁くするように名前を呼ぶと、マオは真っ赤にした顔を僕の胸にうずめてきた。

どうやらこれがマオの今の精一杯らしい。

あまり急がない方がいいのだろうか。

でも。

「マオ」

もう一度呼ぶと、小動物のようにおずおずと顔を上げた。

「好きだ」

マオの肩がびくんと跳ねる。

その両目は大きく見開かれており、何を言われたのかまだ理解しきれていないようだ。

マオは呆然としたまま、僕を見て、自分の両手を見て、また僕を見て。

そんな彼女に、僕はゆっくりと頷いた。

マオは何かを言おうとするが、口がパクパクとするが言葉にはならない。

「僕と、恋人になってください」

交際を申し込む言葉が、魔界でも通用するのかはわからないが。

マオの驚きの表情が泣き顔に変わっていって。

やがて。

嗚咽混じりにこう言った。

「よろしく、お願い、します」

魔王さまに恋人ができたというニュースは瞬く間に広がった。

祝福の声がほとんどだったが、たまに冷やかしの声が混じる。

「魔王サマ〜、ご結婚はいつですか〜」

「う、うるさい!」

四天王にもいじられているようだ。

さすがに可哀想である。

少し前、あまりに冷やかされて頭にきたのか、山一つを消しとばしていた。

それ以来、表立った冷やかしは減少している。

「マオ」

「ユウシャ!」

声をかけると、マオはとびきりの笑顔で駆け寄ってくる。

挨拶をするだけのつもりが、これでは冷やかされても仕方がないとも思ってしまった。

視界の端では四天王たちがニヤニヤしている。

あとで厳重に注意しておこう。

「どうした、ユウシャ? 困ったことがあるのか?」

マオが僕の顔を覗き込む。

よかった、今日は泣いてないみたいだ。

その杖が勢いよく掲げられ、漆黒のマントがはためく。

「我が悩み事をぶっ飛ばしてやるのだ! 我こそが最強の魔王! マオなのだから!」