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最終更新: 2017年8月2日
更新回数: 4回

塔の事例(情報部シリーズ)

 部長はまだ来ていなかった。僕、千石修一は掛け時計をちらりと確認する。少し来るのが早かったかもしれない。約束の時間は午後二時であり、今は午後一時半。三十分ほど余裕がある。僕はこげ茶色のショルダーバッグをテーブルの上に置き、椅子を引いてそこに腰掛けた。軽く息をつく。窓から外の景色を眺めると、今にも雨が降り出しそうなどんよりとした天気だった。こんな天気の日には、高野嬢が来ないことが多い。高野嬢とは僕と同い年の女子生徒である。
 三十分というのは、ただ待っているには長く、まとまった作業をするには短い。もっと時間があればノートパソコンを開いて、何かしらの作業をするだろう。それは大方、今関わっているプロジェクトのコーディングを進めることだ。しかし、それをするには少しタイミングが悪い。もっとも、何もしないというのも悪くないのかもしれない。少なくとも、この場所、グッドリアという名前のイタリアンカフェで、コーヒーを飲みながら、ぐずついた天候の空を眺めつつ、時が流れるのを何もせずに待つというのも悪くないだろう。むしろ、自然の行動に思える。しかし、あいにく僕は、ぼーっと時間を過ごすことを好まない性格だ。故に僕はバッグからペンとメモ帳を取り出して、新しいページを開き、見出しにこう書くのであった。
『塔の事例』
 僕、千石修一はごく普通の少年であると自負しているが、客観的に見るとまめな性格をしているらしい。予習と復習を欠かすことのないタイプの、至って真面目な人物と評されている。僕がこの三十分という待ち時間の間にやるべきことがあると判断したのは、そんな性格のせいなのかもしれない。メモ帳に次々と文字を書き足していく。
『部長に説明すること。黒野巧との出会い。彼が話したこと。無口な子の件。彼の作ったもの。立ち退き。その後』
 つらつらと書いてゆくが、ここで一旦筆を止めた。僕は今日ここで、小林茂という名の部長と、ある話をする約束をしていた。『部長』というのは、僕が便宜上そう呼んでいるだけであり、学校の部活動の部長だとか、まして職場の部長のことを指してそう読んでいるのではない。とはいえ彼は、少なくとも僕にとってはリーダーであることに変わりはなく、部長という呼び方はふさわしいと思っている。
 さて、話の内容についてだが、たった今メモに書いたとおり、塔の事例について話そうと思っている。しかし、どこから説明するべきだろうか。僕はそれを整理しておこうと考えている。説明は論理的にするべきというのがベターな考え方だと思うが、自分の過去を含むこの話を論理的に説明するのは、いささか難しい。論理ばかりを重視してしまうと、時系列がばらばらになってしまう恐れがある。よって、ここは物事が起きた順に説明するのが最善だろうと判断した。
 僕は思い立って手を挙げた。誰かが来たので手を振って合図、というわけではない。その行為の意味は、ここがカフェであるという事実を考えれば誰の目にも明らかだろう。それは店員に向けられたものである。少なくとも僕はマスターと呼んでいる、この店の店長が目ざとくそれに気づいたようだ。無駄のない身のこなしでテーブルの前まで来た。マスターは僕に注文を伺う。僕はコーヒーを注文した。
 この店でコーヒーと呼ばれるものは、基本的にエスプレッソを指す。それがイタリアンカフェとしてのこの店の普通なのだそうだ。マスターは注文をメモしつつ、「コーヒーに砂糖とミルクはお付けしますか」と尋ねてきた。僕は「お願いします」と答えた。マスターは「承りました」と言って厨房の方に戻っていった。そこでふと、甘味が入ったらエスプレッソとは言えないのではないかという考えが浮かんだ。しかし、それはマスターならではの配慮なのだろう。僕は傍目にもすぐに未成年だと分かる程度には、少年らしい容貌をしている。この店のマスターは、その点で柔軟性を示したようだ。
 さて、注文してからコーヒーが運ばれてくるまではほんの数分であったが、それは僕が部長に話すことの出だしをどうするか考えるには十分な長さである。すでに、これまで二分経っているから、待ち合わせの時間まで残り二十八分ということになる。

 ──小学生の頃の話だ。
 僕は自分の居場所を見つけられずに悩んでいた。その頃、僕の家は荒れていたし、学校にも友達と呼べる人はいなかった。
 僕の家族について話そう。両親は僕が生まれるまでは共働きだったそうだ。父は製薬会社に勤めていて、母はパートの仕事をしていた。あとから聞いた話なのだが、母が仕事をやめるときには、かなり真剣に話し合ったそうだ。母は多少なりとも心配症なところがあったが、その頃は特にこれと言って大きな問題は起きなかった。しかし、僕が小学校に入った頃から少しずつ状況が変化してきた。父の勤めていた製薬会社の経営が傾いてきたのだ。収入が大幅に減って、生活スタイルを変える必要が出てきた。加えて、僕が学校生活に上手く馴染めないことが明らかになってきた。また、これはあくまで僕の推測なのだが、母は保護者会などで上手くいっていないように見えた。これらが重なって、両親に大きなプレッシャーを与えていたのだと思う。母はすごくピリピリしていたし、父の方は自分に自信をなくしたように肩を落として、終始苛立っていた。僕はそんな雰囲気の家庭で、事を荒立てないように小さくなっていた。
 今だったらもっと賢く立ち振る舞えるかもしれない。だけど、当時の僕はとにかく家に居たくなかった。かと言って学校にも居づらかった。それで、僕は放課後になると、家に着くのが少しでも遅くなるように、できるだけ時間をかけて帰るようにしていた。できるだけ遠回りをして帰るようにしていたのだ。その行為が、家庭の不安を一層煽っていたのかもしれない。
 とにかく、僕は自分の居場所を探していた。色々な場所を探した。通学路から外れた場所にある大きな橋の下、静かで誰も来そうにない神社の裏、大きな石がいくつも転がっている河原。居場所というのは、実際の場所のことでもあったし、別の意味もあった。当時の自分はそれに気づいていなかったけれど、たぶん、自分を認めてくれる人を探していたんだと思う。──

「お待たせしました」
 マスターの声で考えが過去から現在に戻される。ことんと置かれたコーヒーカップから、香ばしい香りが立ち上っている。マスターは軽く会釈して持ち場に戻った。僕はソーサーを自分に寄せて、それからカップを手に取り、それを口に含んだ。
「……苦い」
 僕はそれほど苦いものが苦手というわけではない。それでもこのエスプレッソは苦いと感じた。そもそも他のエスプレッソを飲んだことがないから、どれくらい差があるのかは分からない。僕は角砂糖を取ってコーヒーに入れ、ミルクも同じように入れた。それからティースプーンで混ぜ、黒と白が混ざり合うのを見守る。それから再びカップを手に取り、その縁に口をつける。少しだけコーヒーを飲み、その飲み心地がまろやかになっているのを感じた。息をつく。
 外に目をやると、相変わらずの曇天である。なんとなく隣家の塀をぼんやりと眺めていると、塀の上で体を丸くしている猫を見つける。
 僕はふいに高野嬢のことを思い出した。高野嬢、本名は高野種菜というが、その少女は猫に似ている。僕から見た彼女は、気ままで自由奔放、そうかと思えばすぐに誰かと仲良くなったり、急に人を避けたりする。避けるというよりは、警戒すると言った方が正しいかもしれない。動物は自分より強そうな生き物と対峙すると本能的に警戒する。それに似ている。そんなことを言ってしまって彼女に失礼じゃないだろうか、という懸念は残る。僕の狭い交友関係の中で、女の子の知り合いはさらに少なく、そのために彼女を理解しがたいと思っているだけなのかもしれない。高野嬢は、実はもっと普通の子であり、僕の方が女子というものをよく知っていないだけだった、という可能性も否めない。とはいえ、僕の率直な感想では、高野嬢は不思議な子だ。そんなことを考えているうちに猫は塀を飛び降り、家の庭の方へ行ってしまった。
 考えを戻そう。僕は時計を見る。予定の時間まで残り二十五分。まだ考えをまとめる時間に余裕がありそうだ。僕の思考は再び過去に戻る。
 
 ──そこは家の裏の坂道を登りきった後にある、雑木林の中にあった。けもの道のような細い道の脇に、明らかに自然の景観に合わない人工物が建っていた。それは鉄の柵で覆われており、その中央には見上げるほどの大きな塔がそびえ立っている。それが何なのか僕には分からなかった。それに近寄り、鉄の柵に手をかけて再びその塔を見上げた。これは一体何なのだろう。
「ここは電波塔だよ」
 心を見透かされたような答えが返ってきた。僕は急に声をかけられたのでびっくりした。誰かに見つかったと思い、後ろを振り返ったが誰もいない。視界に入るのは、ただ左右に伸びる一本のけもの道だけだ。目の前に見える大きな木のむき出しの根っこが少しだけ怖かった。
「君もこっちにおいで」
 声は柵の中から聞こえた。僕は声の主を探し、柵の向こうに一人の少年がいるのを見つけた。たぶん、僕と同じくらいの年齢だろう。どこの学校の子だろうか。見たことのない人だった。警戒心はあったけれど、好奇心がそれを上回る。僕は彼に招かれたのだ。たぶん、どこかに立ち入り禁止と書いてあったのだろうけど、その時の僕はそれを気にも留めなかった。この柵の中はどうなっているんだろう。そんな気持ちでいっぱいだった。
 柵の錠は開いていて、錆びついた扉を押すと、ぎしぎしという軋む音を出しながらゆっくりと開いた。柵の中に入る。柵の中の地面はコンクリートで固められていた。歩くとコツコツと硬い音がする。
 塔に近づいて、その外壁に触れてみた。ひんやりと冷たい。塔はコンクリートで覆われた円筒状の建物で、その上部は恐らく鉄でできている。それから視線を戻し、先程の少年を探した。彼は柵の中を移動したようだったが、すぐに見つけることができた。塔の外壁に、はしごがあり、その近くに塔の入り口と思われる窪みがある。そこに彼がいた。その窪みは見たところ、大きな鉄の扉のようである。そこは、けもの道からは反対側に位置しており、もし通行人がこちらを見ても気づかないだろう。
 それから僕は、改めてその少年を見た。艶やかな黒い前髪、何かを見通すような黒い瞳、そして黒っぽい服。どこまでも漆黒を連想させる。
「僕は黒野巧だ」
 彼がそう自己紹介をしたとき、名前を覚えるのが苦手な僕でも、すんなりと覚えることができた。もっとも、最初は『黒の巧』と聞こえたので、それが何のことなのかすぐには分からなかった。『黒野』が名字であると気づくのに少し時間がかかった。それが分かって以来、僕は彼のことを黒野くんと呼ぶことにしている。黒野くんは僕を見て、見透かしたようにこう言った。
「君も居場所を探してここに来たのかな」
 今思えば『君も』という表現に注目すべきだったのかもしれない。しかし、残念ながら僕はそこまで気が回らなかった。むしろ、君と呼ばれて自分がまだ名前を明かしていないことに気がつく。僕はこう言った。
「僕は千石修一っていうんだ」
「じゃあ、修一くん」
 彼は何のためらいもなく僕を名前で読んだ。もっとも小学生の僕にとっては、何も違和感はなかった。
 ところで彼は、僕の回答を待っているようだった。しかし、僕の方はと言えば、質問された内容を忘れてしまっていた。僕がしばらく黙っていると、何を思ったのかは分からないけれど、彼は塔の扉に手を当てて呟いた。それが僕に対しての言葉であろうということは分かった。この場には、僕と黒野くんの二人しかいなかったから。
「ここは古い電波塔なんだ。今は使われていない。街の方に、ああ、ここからじゃ見えないか。新しい電波塔が建ったことは知っているだろう。ここは電波塔としての必要をなくした。使われなくなったんだ」
 彼はこう続ける。
「ここはいい場所だ。使われなくなったというのに、装置は生きている」
 彼の言うことの半分は分かったような気がしたが、もう半分は分からなかった。少なくとも、ここはもう使われていない場所なのだそうだ。使われなくなった場所。寂しい場所だと思った。実際、黒野くんのこの建物を見つめる目は、少年のものとは思えないほど物憂げな眼差しだった。
 僕は視線を少し落とすと、扉の下に彼の持ち物らしきものが置いてあるのを見つけた。リュックのようなもののわきに、用途は分からないが機械の部品のようなものが散らばっていた。彼は僕の疑問を察したように、扉の下の持ち物に目をやって言った。
「そのリュックには少しの食料と筆記用具、そしていくらかの資料が入っている。そこらに散らばっているのは主に半導体だ。半導体というのは……いや、この話はまた今度にしよう。ところで修一くん、お腹は空いていないかい。水と乾パンくらいしかないが、少しここで休んでいくといい」
 黒野くんはリュックの中からペットボトルのミネラルウォーターと保存食のようなものを取り出して、僕に差し出した。僕は、「ありがとう」と言って、それを受け取った。ペットボトルの蓋を開けて、それを口につける。軟水が喉を通り、その冷たさに心地よさを感じたところで、僕は自分の喉が乾いていたことに気づいた。黒野くんがその場に座ったので、僕もつられるようにして座る。乾パンも一口食べてみたが、僕はどちらかと言うと少食だからか、あまりお腹は空いていないことが分かった。
 こうして塔の裏で、いや表というべきか、軽い食事をとるあたり、何か思い当たるものがあった。この既視感はなんだろう。同じ年代の子と放課後に、人の見つからないような場所で時間を過ごす。おやつや遊び道具などを持ち寄り、密かに活動する。
 秘密基地だ。もっとも僕にとってそう呼べるような場所が今まであったようには思えない。しかし、ぼんやりとだが、もっと幼い頃に家の裏や公園の垣根の影など、こっそり隠れるようにして遊んだ記憶はある。とはいえ、この近辺は都会と呼ばれるだけあって、秘密基地といえるような場所を見つけることはできなかった。どこに行っても人がいるのだ。そんな僕が形容してもよいのか疑問に思うところはあるが、この場はまさしく秘密基地という印象だった。
 その日は黒野くんと他愛のない話をして過ごした。どんな内容の話をしたのかまでは覚えていない。それから僕は家に帰った。帰りが遅いのはいつものことだったので、家族に不審がられるということはなかったはずだ。──

 カチリと音がしてカフェの掛け時計の長針が一つ進む。一時三十八分。どうやら回想は三分間であったらしい。頭のなかでは三分で思い出せても、これを口頭で説明するとしたら五分、六分は必要そうだ。コーヒーを再び口にする。少し冷めてちょうどよい温度になっていた。
 さて、部長は時間通りに来るだろうか。それとも遅れるだろうか。そんなことを考えはじめる。そもそも、部長は約束通りに来るだろうか。いや、来るだろう。
 部長、本名は小林茂という彼は、言動こそ軽々しいものはあるが、リーダーとしての責任感は強く、またそれを自覚しているようでもあり、その点においての期待を裏切ったことは一度もなかい。しかし、時間通りに来るのかどうかという点では、なんとも言えない。彼はそれほど時間に厳密なタイプではないと、僕は思っている。かといって、ものすごくルーズというほどでもない。だから、指定された時間の五分か十分くらい前か後に来る可能性は、想定しておいたほうが良いだろう。大幅に遅れて来る可能性も否定できないが、その場合は事前に連絡をくれるだろうし、それはあまり考えられないことだ。
 ところで、僕の方はと言うと、三十分も前に来るあたり、時間は気にする方なのかもしれない。いや、かえって時間にルーズであるという見方のほうが正しいだろうか。どちらにせよ、こうして直前になって考えをまとめようとしているあたり、常識的な範囲でものぐさで、また几帳面でもあると言えるだろう。つまり、ごく普通の少年なのだ。まめな性格だとはいえ、考えるのが好きだったり、情報をまとめるのに勤しんだりするような人間ではなかったはずである。そんな自分が、考えることを重要視するようになり、まとめることを集中的に行なうようになったのは、黒野くんの影響によるところが大きい。僕は彼と、どんな話をしてきただろうか。
 僕はつかの間の休憩を終え、再び回想の海に思いを沈めた。現在時刻は午後一時四十分、指定の時間まで残り二十分である。

 ──塔に通うことが放課後の日課になっていた。
 最初のうちは塔の外で行われていた話も、塔の中でするようになった。どうやって扉を開けたのかは聞かなかった。最初から開いていたのかもしれないし、黒野くんが何らかの方法で開けたのかもしれない。
 僕はそれよりも、塔の内部に興味をそそられた。たぶん僕は興奮していたと思う。塔の中はコンクリートの内壁で覆われた無機質な空間だった。小学生の感覚では、決して狭くはなかった。大人にとっては狭く感じる広さだったかもしれないが、少なくとも当時の僕が閉塞感を感じることはなかった。
 人工的な光が室内を照らしている。聞いたところ、黒野くんが持ってきたランプなんだそうだ。白色とオレンジ色の明かりが混ざりあって、部屋の無機質な雰囲気を少しだけ和らげていた。明かりはそれ一つというわけではなかった。黒野くんの持ち込んだものと思われるノートパソコンを照らすスタンドライトもあったし、やはり彼の持ち物と思われる資料を照らす明かりもあった。それらはそれぞれ、小型のバッテリーを電源にしているようだった。
 この塔には何故か今でも電気が来ているようだが、黒野くんはそれを使わないことにしたらしい。こう教えてくれた。
「下手に電気を使ったら、そこから僕たちのことを感づかれる可能性がある。なぜ電気が来ているのかは、だいたいの見当がついている。それについてはいずれ分かるだろう。とにかく電気については、手持ちのバッテリーで賄うようにしている」
 電気が来ている理由については心当たりがあるようだったが、彼はそれを口にしなかった。とはいえ、黒野くんは「この電波塔は今は使われていないし、使われている痕跡もない」と念を押してくれた。
 この電波塔で僕がしてきたことは、主に黒野くんの話を聞くことと、彼のやっていることを見ることだった。といっても、彼がコンピュータで何かを打ち込んだり、電子部品を組んだりしていることはすぐに分かっても、具体的に何をしているのかは分からなかった。そんな僕の様子を見て取ったのか、彼は基礎的なことを教えてくれた。そしてそれが彼と交わした会話のほとんどである。
 黒野くんはこれらのことを説明した。まず電子の話から始まって、次いで半導体、次に演算装置、そして無線の話にまで及んだ。彼の説明は驚くほど分かりやすかった。ごく普通の小学生だった僕が分かりやすいと感じたのだから、相当上手に教えてくれたのだと思う。僕は「黒野くんは優れた教師になれる」というようなことを言った覚えがある。しかし彼は首を振って、「教えるより作る側でいたい」と自分の考えを述べた。そして、僕に教えるのは、自分にとっても益になるからだ、と言った。彼は僕に素質があるとも言ってくれた。
 とにかく僕は、この電波塔で黒野くんから多くのことを学んだ。プログラミングというものを最初に教えてくれたのも彼だし、情報処理の基礎を叩き込んでくれたのも彼だった。それ以上に、彼のひたむきに打ち込む姿に僕は感銘を受けたのだ。彼の話は最初のうちはほとんど基礎的な話だった。いや、以前にも説明してくれていたのかもしれない。知識のない僕には到底理解できない話だっただろうし、単に忘れているだけという可能性も拭えない。しかし、僕が技術的な基礎を覚えていくにつれて、彼が成そうとしていることについて、徐々にではあるが明かしてくれるようになった。
 とはいえ。それに前後する時期にある出来事があり、それが理由で一定期間、彼が僕にその話をすることを控えることになった。別に大したことではないし、これといった顛末もない些細なことなのだが、それが事実である以上、説明を省いてしまうのは後々面倒になりそうなので、それについて話す必要があるだろう。
 しかし、その前に、僕が彼に幾つかの素朴な質問を投げかけたときのことを話そう。それは例えば年齢、例えば彼の家族のこと、電波塔を見つけた経緯などである。彼は特に嫌がる様子もなく簡潔に答えてくれた。
「年齢は修一くんと同じだ。僕の両親について言えば、父は半導体メーカーの研究員で、母は科学者だった。そのおかげで家には部品や資料があふれていて、子供の好奇心を満たすものには事欠かなかったよ。この電波塔を見つけた経緯はおそらく君と同じだろう」
 また、あるときには彼の服装や持ち物について質問してみた。黒野くんは事前に回答を用意していたかのようによどみなく答える。
「この服装からどんなことを連想するにしても、それはそれほど的外れではないと思う。それから、これらの持ち物は全部僕の私物だよ」
 他のときには、黒野くんの過去についても問いかけてみた。
「これは自分でも覚えていない頃の話だが、僕は三才の頃にははんだごてを握って遊んでいたらしい。四才の頃には母に言わせればロボットのようなものを作っていたとのことだ。小学校に入る少し前のことならわずかに覚えているが、あれは五才の頃になる。半導体を組み合わせて原始的なコンピュータを作った。小学校に入ってからは、年に一つのペースで何らかのプロジェクトを進めてきた。もっと細かい点については、機会があったら話そう」
 残念ながらその機会は訪れなかったが、これだけでも彼の天才ぶりを垣間見られるエピソードである。神童と読んだほうがしっくりくるだろうか。僕はその時、思ったことをそのまま口にしてしまったらしく、彼は呟くようにして言った。
「天賦の才か。それが天から与えられたものならば、その価値は何によって量られるのだろうね。その才能を何のために使うかによって量られるべきだ、という陳腐な結論に甘んじたいと僕は思っているのだけれど、君はどう思う」
 彼は回答を求めているようには思えなかったので、僕は曖昧に頷くにとどめた。彼は紛れもなく天才であり、言動も小学生とは思えないほど大人びていたが、考え方は常識からそうかけ離れているとは感じられず、一般的な感性を持ち、黒野巧という人間は、その並外れた才能を別にすれば、ごく普通の少年であると僕は感じていた。少なくともその時点では。──
 
 三分。三分というのは即席麺がほぐれるのにちょうどよい時間であり、一つの回想を終え、また一杯のコーヒーを飲み干すには十分な時間であった。
 午後一時四十三分。今何時かと問われたときに、もしアナログ時計を見たのならば、どう答えるだろう。僕もまめな人間と言われるが、そういうときには「だいたい四十五分」と答えるだろう。そして、省略された二分はやはり、観測者の付した重きに応じて扱われることとなる。すなわち、小休憩に当てられる。ぼーっとすると言い換えても良いかもしれない。
 何もしないというのは、活字の世界では何とも退屈で無意味な時間になってしまうだろうが、それを不要のものとして全く無くしてしまうのは、少なくとも現実の世界においては愚かなことだ。激しい運動にクールダウンが必要なように、集中的な思考にもいくらかの休息が必要なのである。そのようなわけで、僕が省略した二分は、休憩のために当てられた。あくまで感覚的な話ではあるが、脳に余裕ができたように感じる。
 さて、少年時代の続きの一コマを思い出そう。重要度でいったら低いものだろうが、事実として順に話した方が良いだろう。舞台はやはり、あの電波塔である。
 
 ──その日も、僕は足繁く電波塔に赴いていた。すっかり日課になっていたし、黒野くんの話を聞くのも楽しみになっていた。少しずつ彼の話の内容が分かるようになってきたので、面白みが増してきたのだ。特に、そろそろ彼の行おうとしていることについて教えてくれそうな雰囲気だったので、より一層楽しみにしていた。しかしそれは、ある一つの理由により、しばらく延期されることになった。
 その日の電波塔には、僕と黒野くんの他にもう一人、知らない子がいたのである。その子は色素の薄い髪を長く伸ばしており、その長い前髪は表情を完全に覆い隠してしまっている。ぱっと見た感じ、おとなしそうな子だと思った。シンプルなワンピースの裾を抱えるようにして座っている。その子は特に何をするわけでもなく、ただ黙ったまま、電波塔に背中を預けて座っていた。
 僕は黒野くんの話を楽しみにしていたので、その子の登場は不本意なことだった。一体何者なのだろう。僕の怪訝そうな様子に気づいたのか、黒野くんは言った。
「何者かについては、本人が自ら言わない限りは詮索しない。だが、なぜここに来たのかは大方想像がつく。それは、僕や修一くんがここに来た理由と同じだろう。僕は、ここを自分の場所だと主張したことはないし、今後そうするつもりもない。誰がここに来てここを使おうと、僕にはとやかく言う理由はない。しかし、修一くん。僕は今日会ったばかりの人を前にして、僕が成そうとしていることの詳細を話すわけにはいかない」
 それは僕の期待に反する言葉であったので、とてもがっかりした。僕は、その原因となったこの子に対して、憤然とした気持ちを抱いた。しかし、黒野くんがこの子を追い出そうとしない以上、僕は何も言えなかった。それと同時に、その子と仲良くするということもなかった。
 もとより、僕も最初はいくらか会話を試みてみた。しかし、その子は何も答えなかったので、僕も話しかけるのをやめた。また黒野くんはその子に対して、ほとんど関心を示さなかった。そのようなわけで、その子がいることで僕らの活動が大きく変わるということはなかった。
 その子の方も僕達に無関心なようで、晴れた日には流れる雲を眺め、雨の日には制御室の隅の方で虚空を見つめていた。何をしたいのか分からないというより、何もしたいことがないようであった。
 その子に対する不満は確かにあったが、不思議と気味が悪いとは思わなかった。その子の事情は何も知らないが、居場所を探しているという点では僕と同じなのだろう。僕もやはり、家族や学校に溶け込めなかったという点では同じ側の人間だと自覚していたし、また寡黙な人もおしゃべりな人も、仲良くしようとする人もそうでない人も、色々な人がいるということは小学生ながら認めていた事実だった。
 その子の名前を知る機会は結局なかった。それとなく聞いてみたこともあったのだが、何かを言いかけて、しかしすぐに口を閉ざしてしまった。珍しく黒野くんが何事かをその子に話していることもあったが、その子は顔を少しばかり黒野くんの方に向けるだけで、会話は続かなかった。
 その子が、唯一興味を示したのは食べ物だった。電波塔には少しばかりの食べ物を常備していた。食べ物と言っても、乾パンのような非常食だが、その子はそれをよく欲しがった。空腹だったのかもしれないが、詳しい事情はわからない。それで、僕と黒野くんが話をする横で、その子が何かを食べているという光景が、いつしか日常のものになっていた。
 黒野くんがその子を無害と判断し、その子を無視して僕に詳しい話をしてくれるようになるまで、結局数ヶ月かかった。それまで僕は、黒野くんの話に少しでも付いて行けるように、スキルの向上を目指して自分なりに努力した。黒野くんと初めて会ってから、半年以上は過ぎた頃の話だと思う。──

 短い回想を終え、視界に映る景色が現実のものと入れ替わる。無意識にコーヒーを飲もうとして、それが空であることに気づいた。
 なんとなく商品のメニューを取って眺めつつ、昼食は食べてきたのでお腹は空いていなかったが、軽いものだったら注文してもいいかもしれないと思い立つ。イタリアンカフェというだけあって、飲み物、特にコーヒーが主要なメニューであることに間違いはないだろう。とはいえ、サンドイッチなどの食事系やパフェなどのデザート系も注文できるようだ。しかし、今は別段それらを食べたい気分ではない。
 ふと下の方に小さく掲載されているメニューが目に入る。スコーン。一口大のパン菓子のようなものだろうか。聞いた話だが、ここのスコーンは評判が良い。まだ食べたことはなかったので、少し食べてみたくなった。
 先ほどと同じように手を挙げる。マスターが目ざとくそれを察知して、すぐに受け付けてくれた。追加の注文をする。スコーンのトッピングを何にするか尋ねられた。
 再びメニューに目をやる。どうやら、ジャムやクリームなどを2つ選ぶらしい。僕としてはさっぱりしたものの方が良い。それで、これがそうなのかは食べたことがない以上分からないのだが、りんごジャムとカスタードクリームを頼んだ。また、コーヒーのおかわりをするか聞かれたので、お願いすることにした。
 さて、スコーンを注文したことで高野嬢がここに来る可能性が少し高まったような気がした。これはあくまで経験則であり、科学的根拠は全くないのだが、彼女は美味しいもの、特に甘いものがあるときに、ひょっこり現れることがある。あるいは、面白いことがあるときだ。だが、単なる偶然と数えてしまうには、そういう場面に遭遇する機会があまりにも多すぎる。僕には分からない何らかの方法でこちらの動向を察知しているのだろうか。もし、スコーンのトッピングをりんごジャムからイチゴジャムに変えたとしたら、クリームをカスタードクリームからキャラメルクリームに変えたら、彼女がここに来る確率は上がるのではないか。
 などと非科学的なことを考えているうちに、コーヒーのおかわりとスコーンが運ばれてくる。何であれ、これで落ち着いて考えることができる。
 電車の待ち時間や通勤時間、いわゆる隙間の時間に本を読んでいだり宿題をやっていたりする人を時々見かけるが、その集中力たるやなかなか真似できるものではない。確かに時間の有効活用という点では優れた方法だ。しかし、それを実行することは、考えるほど簡単ではない。駅は乗客でごった返しているし、電車の往来の音も激しい。何より、自分の乗る電車がいつ来るか、そしていつ降りるかという精神的にプレッシャーがかかる中で、果たして自分は落ち着いて本を読めるだろうか。
 ある人はこう言うかもしれない。「いや、むしろ本を読むのはリラックスするのためなのだ」と。なるほど、そうかもしれない。そういった場面でイヤホンを耳に詰めて音楽を聞くことが、音楽を鑑賞して感動したいからという理由からではなく、あくまで気を紛らわすためにそうするということがあるのと、さして変わりはないのかもしれない。
 それでも、人目のあるところで生産的な作業を行なう人を僕は知っている。電車の中でモバイルパソコンを膝に置いて何かを打ち込んでいる人がいるが、それは気休めでブラウジングを楽しんでいるというわけではないだろう。また街角の洒落たカフェなどで、ノートパソコンを開いて何かを打ち込んでいる人もいる。
 人目があるかないかで、生産性にどんな影響を与えるのか、とても興味深い論題ではあるが、ここで今更な事実を思い起こす。ここもカフェなのである。僕はここでノートパソコンを使って作業をすることもあるし、現にこうして集中して考えることもできているのだから、カフェでの作業が必ずしも集中力を落とすわけではないと僕の場合には言えるのだけれど、しかし、話が逸れてしまった。
 隙間の時間のことである。僕の場合には、部長とここで待ち合わせをしており、そのことについてのプレッシャーはほとんどない。しかしここで何かのメニューを注文してから届くまで、その間に集中して回想できるほどの精神的な余裕はない。ただそれだけのことなのだ。何をプレッシャーとするかは場所や状況、その人の考え方によって異なるのだ、などと曖昧な結論を下したところで、次なる回想に移ろうと思う。
 時計の針は五十分を指している。残り十分。それだけあれば十分だろう、十分だけに。などとくだらないジョークを心の中で言った。

 ──黒野くんがようやく本題を話してくれる気になったらしい。無口な女の子は相変わらずそこに座っているが、彼はそれを無害と判断したのだろう。電波塔の内部、人工的な明かりの照らす薄暗い室内で、彼はノートパソコンに手を置いて、こう言った。
「四つのキーワードがある。一つ目のキーワードはメッシュネットーワークだ。少なくとも僕がそう読んでいるものについて、最初に説明する」
 メッシュネットワーク。知らない単語だ。もしかしたら黒野くんが考案したものなのかもしれない。そう考えたが、口にはしなかった。黒野くんは説明を続ける。
「それはこういったコンピュータやモバイル機器が回線を利用するだけではなく、自身が電波の発信源となることで端末同士が直接つながり合い、メッシュのような構造になることを指している」
 これまで黒野くんから基礎的なことを教わってきたからか、彼が何を言おうとしているのか、ある程度は掴むことができた。電波には電波塔から家まで届くような、長い距離を進む電波がある。長さについて言えば、海をまたぐようなもっと遠くまで届く電波もある。リモコンから発せられるような微弱な電波もある。
 僕が幼い頃、田舎に住む祖父の家に行ったことを思い出した。そこにはテレビもコンピュータといった電子機器がなく、あったのは居間に堂々と鎮座しているラジオだった。僕はそのとき初めてラジオの実物を見た。もちろん、ラジオというものについては知っていたし、災害対策用のライトにもそれがついていることも知っていた。しかし、専用のラジオを見たのはその時が初めてだった。祖父は、興味津々でラジオを触る僕に「ここは山奥だからAMしか聞けないんだ」と言った。その言葉の意味を当時の僕は分からなかったけれど、なんとなく、電波には遠くまで届くものとそうでないものがあることを悟った。
 さて、黒野くんの話に戻ろう。彼は一つ目のキーワードがメッシュネットワークであると言った。二つ目はなんだろう。
「二つ目のキーワードはインターネット共有だ。テザリングとしても知られている。これはある端末の使っている回線を他の端末でも使用できるように、いわば回線を共有する機能のことだ」
 これについては知っていた。携帯電話とタブレットPCを持っている人が、携帯電話の方だけ回線を契約して、タブレットPCでインターネットを使いたいときは携帯電話の回線を利用する、そんな話を聞いたことがある。
 黒野くんは、僕が話についてきているのを確認したように小さく頷いて、話を次に進めた。
「三つ目のキーワードは仮想通貨だ。仮想通貨そのものというよりは、その仕組みの方に着目してほしい。つまり、仮想的な通貨というシステムと、その価値を維持するための電子的な機構についてだ」
 仮想通貨という言葉は知っているし、それがネット上で使われていることも知っている。しかし、その仕組みについてはさっぱり分からなかった。
 以前、黒野くんが仮想通貨に関する論文を見せてくれたことがある。僕は論文というものを初めて見た。論文の多くがインターネットで誰でも読めるということを知って驚いた。もっとも、その論文の内容は全く理解できなかった。ただ、そのとき黒野くんが言った「仮想的なお金の価値を安定させる技術」という表現だけは、印象に残っている。
 ところで、仮想通貨については、それに関係した報道が最近あった。それを扱う会社が不正をしたという内容だったが、僕はそれを見て以来、仮想通貨というものに若干の不信感を持つようになっていた。
 とはいえ、黒野くんが言ったのは、仮想通貨の仕組みに着目するようにということだ。僕は、仮想通貨の仕組みについては何も知らない。
 黒野くんは説明を次に進めた。
「四つ目のキーワードは、公共ネットワークのセキュリティだ。公共のネットワークには脆弱性が指摘されているが、それを埋めるだけの実際的な措置は未だ成果を上げていない」
 これは知っている。駅やレストランなどで無償で提供されているネットワークだ。サイズの大きなファイルをダウンロードするときなど、通信に制限があるときに利用するという話を聞いたことがある。しかし、たびたび見かける専門家による意見によれば、公共のネットワークはいわば傍聴される危険があるので、気をつけるようにとのことだ。それが、どのように危ないのか問われても、僕はそれに正しく答える自信はない。
 さて、彼はこれまで四つのキーワードを挙げた。
 一、メッシュネットワーク。
 二、インターネット共有。
 三、仮想通貨の仕組み。
 四、公共ネットワークのセキュリティ。
 この四つだ。
 黒野くんは続けて何かを言いそうな雰囲気だったし、僕もそれを予感して待つようにしていたけれど、どうやら五つ目はないらしい。もっとも、彼はすべてを語っていないという可能性は拭いきれない。僕の理解が追いついてから明かすということがあるかもしれないし、あるいは逆に、クイズのヒントのように、僕にもっと理解力があれば、キーワードは四つより少なかったのかもしれない。少なくとも説明については、僕のために簡略化したものであろうことは、おそらく間違いないだろう。
「さて、この四つのキーワードから何か分かるだろうか」
 彼は言った。連想されるのは、どれも電子的な技術だということだ。そしてどれもネットワークに関連したものだということも挙げられる。しかしそれ以上のこととなると、思いつくものがない。黒野くんは助太刀をするように付け加えた。
「ヒントは電波塔だ」
 彼は自分の建っている場所を指して言った。ヒントは電波塔。これは事実上、五つ目のキーワードと言ってもよいかもしれない。電波塔と四つのキーワード、どんな関連があるのだろうか。考えてみる。
 一つ目のキーワードはメッシュネットワークだ。これを聞いた瞬間はピンとこなかったが、それ自体については何度か黒野くんから教えてもらったことがある。例えば、ある端末でインターネットを使えない場合に、あるいはそれに相当する機能をオフにした状態でも、その端末が内蔵する無線の機能を用いることで、チャットのようなやり取りが可能になるとのことだった。
 二つ目のキーワードはインターネット共有だ。これについては、さっき黒野くんも言っていたが、テザリングという機能が知られている。携帯電話の回線を他の端末といわば共有する機能だ。それを利用すれば、二つ以上の端末がある場合に、そのうちの一つしか回線を契約していなくても、その回線を共有して、他の端末でもインターネットに接続することができる。
 三つ目のキーワードは仮想通貨の仕組みだ。これについては、皆目見当がつかない。僕が知っていることと言えば、お金の価値は変動するということくらいだ。一ドルが何円で、1円が何ドルだというニュースは毎日のように目にする。普通に生活しているとお金の価値は昨日と今日で変わっていないように思えるが、実際には常に変わっている。もしそれが仮想的で実体のない通貨だとしたら、もっと大きく変動するのではないだろうか。そして、そうなると困るだろうから、価値を安定させる方法が必要になってくる。黒野くんが言っていたのは、そういうことの話だろうか。
 四つ目のキーワードは公共ネットワークのセキュリティだ。公共ネットワークは無償で利用できる点では便利だが、安全面での心配は残る。しかし、それでも利用する人は利用する。実現は難しいのかもしれないが、もし安全が保証されたのなら、もっと利用者が増えるのかもしれない。
 そして、最後のヒントが電波塔だ。僕が今立っているこの場所も電波塔の一つだ。この電波塔に直接関係するのだろうか、それとも数多の電波塔を含んだ話なのだろうか。黒野くんの言ったキーワードを頭のなかに並べては、思いつく限りのことを考えるが、一向に結びつかない。
 さて、一つ目のキーワードはなんだったか。そこで僕は思考が一周したことに気づく。
 以前に黒野くんが言っていたことを思い出す。彼は僕に考えることと悩むことの違いについて教えてくれた。
『考えるとは知っていることや調べたことを頭のなかで思い巡らすことだが、悩むとは同じところをぐるぐると何度も考えて前に進まない状態のことを言う。考えることは有意義だが、悩むことには何の価値もない』
 僕は考えが悩みに移る前に施行を中断して言った。
「考えてみたけど、分からない」
 黒野くんにとっては想定内の答えだったに違いない。彼はそれを聞いて頷き、核心となることを順に話し始めた。
「一つ目のキーワード、メッシュネットワーク。これは距離の問題さえクリアできれば、回線を契約していない端末同士でもやり取りができる可能性を秘めている。端末は入手できても通信料は払えないような人たちにとって僥倖となり得る技術だ。二つ目のキーワード、インターネット共有。これは普通は自分や家族のためのものだが、第三者に対して行なえると考えるとどうだろう。少なくとも、相手にとってはメリットとなる。いわば回線を無償で借りられることになるのだから。三つ目のキーワード、仮想通貨の仕組み。第三者に接続を共有することを通貨のように扱えるとしたらどうだろう。例えば、第三者に接続を提供した分だけ、自分も第三者から提供を受ける権利を得る、といった具合だ。そして、四つ目のキーワード、公共ネットワークのセキュリティ。今挙げた個人間の、しかも第三者との接続を共有することには、公共ネットワークが抱えるようなセキュリティの問題が必ず浮上してくる。それに輪をかけて法的な問題も出てくる。しかし、それらの問題をすべて解決できる手段があるとしたらどうだろう。以上の技術を組み合わせたら、何ができるだろうか」
 ここで黒野くんは話に休止を入れる。
 思い出そう、最後のヒントは電波塔だ。そのヒントが黒野くんの説明にどう関係してくるのか。彼は話の結論を述べていった。
「すべての端末が電波塔となって、各々がつながり合う、独自のネットワークを作ることができる。それはかつてのコンピュータが掴み損ねた未来だ」
 彼は言った。すべての端末が電波塔となる、と。その意義を捉えそこねていると、黒野くんはさらに補足するようにして言った。
「誰もが通信を限界まで使うわけではない。その分を誰かに安全に貸せるとしよう。必要なときに制限が来て通信できないこともある。その分を誰かから安全に借りられるとしよう。オーバースペックの通信を有している人もいる。その分を誰かに安全に提供でき、それが仮想通貨のように自分にとって何らかの益があるとしよう。各々の端末同士がメッシュのようにつながり、バランスよく通信を共有することができれば、裕福な人にもそうでない人にとってもメリットが生まれることになる」
 状況を想像してみる。僕は現にモバイル機器を持っていないし、仮に持つことができても、通信料を払うのは今の僕には不可能だ。そこで、黒野くんの言う電波塔の話が実現したとする。そうすると、僕は通信料を払わずに、通信を借りることができるということになる。果たして、こんな都合の良い話があるのだろうか。実現可能なのだろうか。
 さて、黒野くんの話には続きがあった。彼は付け足すようにして言う。
「……というようなことを数年前に考えた」
 現時点で僕と黒野くんは小学生である。その数年前となると、何才のときのことを言っているのだろう。場合によっては年齢が一桁の頃のことかもしれない。そうであれば、黒野くんは何者なのだろう。彼は注釈を続ける。
「当時はそれを実現するための技術的な基盤が存在しなかった。しかし、ここ数年の進歩によりそれが実現可能になってきた」
 黒野くんは、当時は自分の技術力が足りなかったとは言わなかった。そしてそれが、見栄を張っているのでないとすれば……少なくとも、この電波塔で黒野くんと過ごした日々を思い返してみても、彼の言葉には何の誇張もなく、ただ事実を述べていると認めざるを得ない。改めて黒野くんの天才ぶりを再認識させられる。
 もっとも、このことすら黒野くんからすれば大したことではなく、本当の実力を見誤っていたことを後で知ることになるのだが。黒野くんは説明の最後にこう言った。
「本当はもっと早くに伝えるつもりだった」
 黒野くんは部屋の隅にいる無口な子に目をやった。そして、これまでの黒野くんの口ぶりから察するに、彼の言う電波塔のシステムはほとんど完成しているのだろう。
 その後、彼は実際に作ったものを見せてくれた。予想通り、それはほとんど完成しているのだと言っていた。また、システムの動作原理も教えてくれた。残念ながら、僕はその百分の一を理解できたかどうかすらあやしい。
 僕は、彼が最後まで残しておいた作業、すなわちシステムに名前をつけるところだけ、一緒に考えた。だいぶ色々な候補を考えたと思う。そして最終的に一つの名前が選ばれ、黒野くんの言うところの、すべての端末を電波塔にするシステムが完成した。──
 
 長いように思えた思い出は、実際には五分間の短い回想だった。
 完成したシステムは誰でも閲覧できる状態でネット上に公開されており、今でも見ることが出来る。そして、今だからこそ言えるのだが、やはり黒野くんはとんでもない天才だった。彼の作ったシステムは驚愕するほど秩序正しく設計されている。あれから数年、僕も僕なりにスキルを磨いてきたつもりだ。認めてしまうのは悔しいが、システムのコア部分は今の僕にも理解しがたいものである。
 当時、黒野くんは小学生だった。技術の話に年齢は関係ないのかもしれないが、それでも、あの当時にこれほどのものを作ったのは驚きである。
 それでも、彼の成し遂げたことがこれだけであったなら、僕は彼を一人の天才としか見なかっただろう。彼は天才であり、一人の友人であり、それ以上でもなければそれ以下でもなかっただろう。
 しかし、僕は彼の実力を完全に見誤っていた。
 現在の時刻は午後一時五十六分。あと四分もあれば、最後の回想を終えることができるだろう。
 それは黒野くんと僕が別々の道を歩むことになった日であり、同時に黒野巧という人物の本当の姿を垣間見ることになった日のことである。
 その日も今日のような曇天だった。
 
 ──電波塔の様子がいつもと異なっていた。
 柵の扉は開いていたが、中はこれまでのような入りやすい感じではなく、工事に使うような侵入防止の鉄パイプが、道を阻むようにして置いてある。それはこれまでもあったのだが、今までは横にどけられていたのだ。僕はそれをくぐって中に入る。
 黒野くんの荷物はすべてなくなっていた。そこは片付いているというより、自然の中に放置されているような、そんな印象を受けた。寂しい場所だと改めて思った。
 これまでのことはすべて夢で、現実にはなかったのではないかとさえ思えた。
 しかしそれは、いつも電波塔の隅に座っている無口な子が、相変わらず長い前髪で表情は読めないが、柵の前で呆然と立ち尽くしていることや、その後ろの方から鳴るシャリという足音がそれを否定していた。
 一瞬、誰かと思って体をこわばらせたが、それが黒野くんのものであるとすぐに気づいた。
 僕は再び鉄パイプをくぐって柵の外に出た。
 黒い服に黒い靴。雨の日には黒い傘をさしていた。人にイメージカラーというものがあるとすれば、彼は間違いなく黒であろう。
 そして、その少年の口からもれる息は、奇しくも空気を白く染めた。季節は冬に入ろうとしていたのだ。もしかしたら、雪が降るかもしれない。それはきれいだろうと思ったが、気分を重くさせる曇天は覆らない。
 黒野くんは元から表情の乏しい方だと思うが、今日は少し険しい顔をしているように思えた。何か悪い予感がした。黒野くんはしばらく沈黙していたが、やがてゆっくりと口を開いた。その端正な声は、声量は小さくとも自然と耳に入ってくる。彼は淡々と、しかしはっきりとこう言った。
「この場所にはもう来てはいけない。近づいてもいけない。ここはもう、僕らの場所ではなくなった」
 はっとした。それは、今まで考えないようにしていたこと、やっと見つけた居場所がなくなるかもしれないという大きな不安を容赦なく突く言葉だった。たった一言で、こんなにも絶望的な気持ちになるなんて。僕は絶句した。
 しかし、もっと激しく反応した人物がいた。
 無口な少女はハッと顔を上げて黒野くんを凝視した。前髪がなびく。
 僕は初めてその素顔を見た。その口は何かを言いたげにぱくぱくと動くも言葉にはならず、その目は親に見捨てられた動物の子供のように絶望の色を宿している。なぜ、そんな目をするのか。僕にはすぐに分かった。分かっていたことだ。口にはしなくとも、この場所が彼女にとって大事な居場所になっていた、ということである。
 そして、そんな彼女を見て、きっと僕も同じような目をしているに違いないと思った。今、手元に鏡がなくてよかった。自分が絶望している顔なんて見たくない。
 でも、黒野くんから見れば、僕らの表情など文字通り一目瞭然だろう。僕は今まで、彼が動揺したり困惑したことを見たことはなく、そして今もまた落ち着いていたが、その声のトーンはいつになく低かった。
「この電波塔は再び使われることになった。明日には人がやってきて設備の点検を始めるだろう。僕たちはもう、ここに来てはいけない」
 ここが再び使われるようになる。僕たちは追い出されるのだ。
 僕は、黒野くんが僕らを見限ったのではないことに安堵しつつも、僕たちを追い出す大人たちへの苦い気持ちが胸に湧き上がってくるのを感じた。
 なぜ。理不尽だ。
 もっとも、ここを勝手に使っていたのは僕たちの方で、非は僕たちの側にあるのだろう。でも、少なくとも今このときは、そんなことを考えられるほど、心に余裕がなかった。
 しかし、そんな怒りさえも、黒野くんの初めてみせた表情を目にして、消え失せる。彼は申し訳無さそうな顔をして言ったのだ。
「こうなることをもっと前から知っていた。ここに居られなくなる時についても、大方予想がついていた。だけど、今まで言うことができなかった。もっと早くに話すべきだったかもしれない。……済まない」
 黒野くんが謝ることなんてなにもない。強く思った。むしろ、僕たちの方こそ、謝らなければいけない。ずっと黒野くんに頼りきりだったし、こういう自体になるまで何も気づかずに、すべてを彼に押し付けていた。
 僕は彼のことをとんでもなくすごい人とばかり見ていて、同じ年齢の少年であることを忘れていなかっただろうか。たまには彼も不安を誰かにぶつけたいときがあったのではないだろうか。
 そして、今頃になってようやく気づいた。最初に彼はこう言っていたじゃないか。
『君も居場所を探してここに来たのかな』
 君も、と彼は言った。そうだった。『君も』が指すの僕以外の誰かは、その場に一人しか居なかったじゃないか。他でもない、黒野くん自身だ。
 彼も居場所を探してここに来たのだ。なぜか。そんなの分かりきっている。自分の居場所が、他になかったからだ。胸が痛んだ。彼は、まるで自分が僕たちを追い出すかのように言ったけれど、追い出されて一番つらいのは、黒野くん、君じゃないのか。
 口をついて言葉が自然に出る。
「僕の方こそ、何の力にもなれなくてごめん」
 もっとも、僕がそれに気づいていたところで、彼の力になれていた、なんてことはなかっただろう。でも、これが僕の正直な気持ちだった。
 無口な少女は何も言わなかった。何も言わずに、うなだれて顔を伏せ、力なく手を垂れる。そして俯いたまま、僕たちに背を向けた。肩が震えているように見える。泣いているのだろうか、それとも笑っているのだろうか。どちらにしても、これ以上この場にいる理由はない。
 黒野くんも、ここに長居する雰囲気ではなかった。
 あっけない解散。あっけない終わり。そうなるかと思った。
 このときになっても、僕はまだ黒野くんの本当の実力を知らずにいた。
 彼はゆっくりと顔を電波塔の方に向け、その視線はずっと先にある空を見据えた。その目は猛獣でさえ身がすくむのではないかと思うほど冷たい目つきであり、しかしその声は、美しい鳥さえ魅了するほどの静謐な声だった。彼はこう言い切ったのだ。
「だが、最強のカードはすでに切らせてもらった。僕たちの勝利はすでに確定している」──

 思い出はここまでである。
 その後、僕らは散り散りになり、二度とあの場所に集うことはなかった。あの場所は再び電波塔として使われることになった。
 僕たちは居場所を失ったのだ。
 普通なら、この出来事は苦い思い出として記憶の中に留めておくだけになったであろう。しかし、そうはならなかった。だからこそ、今こうして、記憶を掘り起こすことになったのである。
 黒野くんと僕は別々の道を歩むことになった。そして今も、黒野くんと同じ場所にいるということはない。むしろ、二人の距離は大きく離れてしまったと言えるだろう。
 時計を見る。午後一時五十九分。残りあと一分だ。手短にまとめてしまおう。

 これは後日談である。
 ニュースで報道されていたことだが、あの電波塔は、最近になって使われなくなった。電波塔としての必要性がなくなったからだ。では、なぜ必要でなくなったのか。それは都会を中心に普及し始めた、あるシステムによる。そして、それこそが黒野くんの作り上げたシステムだった。そのシステムは彼の狙い通り若者たちを中心に使われ始め、着実に広まり、そしてついに従来の通信を脅かすまでになった。この現象はニュースで度々取り上げられ、法的な争いまでに発展した。しかし、そのシステムに抜かりはなかった。そのような報道はかえって、システムの安全性とメリットが明らかであることを公にしたのである。結果として、そのシステムは国から認められ、一つの標準として使われるようになった。
 黒野くんは、巨大な組織を相手にたった一人で勝利したのである。
 そして、何より驚きなのが、あの日、あの時点でこの勝利を宣言し、実際にその通りになったということだ。彼は想像を遥かに超える人物だった。
 彼の本当の実力は、少なくともその一つは、先の先を見通す驚異的な洞察力にある。そのことをこの一連の出来事を通して知るようになった。
 ところで、彼の宣言が実現するまで数年を要した。では、なぜそれほどの時間が必要だったのだろうか。システムが国中に普及するのに数年を要した、というのは妥当な考え方だろう。しかし、黒野くんほどの実力を持った人に、もっと他に策はなかったのだろうか、と考えてしまう。彼を高く評価しすぎているのかもしれない。しかし、その疑問は国内だけでなく海外に目を向けたときに明らかになってくる。
 彼の作ったシステムをいち早く受け入れたのが、海外のある大国だったからだ。そして、その国や他の国でシステムが普及し標準になっていくにつれて、この国もそれに倣わずを得なくなったというのが、実際の流れである。
 彼は最初から海外からの普及を見越して作っていたのか、この流れを当時すでに予想していたのか、今となっては分からない。
 また、他にも気になる点がある。それは、本当にあの時、彼はそのシステムを作っていたのか、という点だ。彼は当時でさえ、そのシステムは数年前に考えたものだと言っていた。そして、こうも言った。
『当時はそれを実現するための技術的な基盤が存在しなかった。しかし、ここ数年の進歩によってそれが実現可能になってきた』
 言葉通りに捉えるなら、実現可能になったから開発に着手した、ということになる。では、彼はそのときをただ待っていただけなのだろうか。技術が整うまで、何もせずに待っていたのだろうか。別なプロジェクトを進めていて、たまたまそれが実現可能になったからそうしたのだろうか。
 しかし、例えば、彼がシステムを思いついた時点で、システムをほぼ完成させていたとしたらどうだろう。彼は、彼が言ったその時点には、システムを作っている、とは言わなかった。彼が僕に計画を明かしたときにはすでに、システムが完成したのではないだろうか。そして、もしあの時点で完成していたとしたら、彼がしていた作業は一体何だったのか。
 彼は塔から追い出されることを、僕たちに告げる前から知っていた。
『こうなることをもっと前から知っていた。ここに居られなくなる時も、大方予想がついていた』
 もしかしたら、僕たちが出会った初めの頃、電波塔に電気が来ていることについて話してくれた時点で、気づいていたのかもしれない。こう言っていた。
『なぜ電気が来ているのかは、だいたい見当がついている。それについてはいずれ分かるだろう』
 その時点で彼は、再び電波塔が使われるようになることに感づいていたのではないだろうか。そうすると、彼はこのときすでに、僕たちが追い出されることを知っていたということになる。それを知った彼は、急いでシステムを完成させた。これは一見、筋が通っているように思える。
 では、もしシステムがすでに完成していたとしたら、彼は一体何をしていたのだろう。
 これは僕の単なる仮説にすぎないが、彼は普及のための準備をしていたのではないだろうか。彼の作ったシステムはいわば火種だ。それが普及するためには、燃料となるもの、つまりそれを受け入れる状況が整っている必要がある。彼はその根回しをしていたのではないだろうか。海外がシステムを受け入れる状況を作り出し、最終的に国内に浸透せざるを得ないよう、彼は首尾よく行動していた。彼は先を見通し、世界の動きを予想し、望む結果を得られるように事が動くように、事前に準備していた。
 闘いが始まる前に、すでに勝利のための布陣を敷いていた。彼の宣言の裏には、このようなことがあったのではないか。
 繰り返すが、これは僕の仮説にすぎない。そして、それを裏付ける手段を持ち合わせていない以上、これ以上、考えるのは無意味だろう。それに、何よりもう時間だ。
 カフェの時計が午後二時を告げる。それに重なるように、カフェの入口の扉が開き、カランコロンとベルが鳴る。部長が時間ぴったりに来た。彼は肩を大きく上下させて息をしている。どうやら走ってきたらしい。彼はキョロキョロとあたりを見回し誰かを探した。その誰かとは、もちろん僕のことである。僕は軽く手を振って合図した。部長はそれに気づいて、こちらに駆け寄ってくる。

 さて、黒野くんほどではないが、僕も少しばかり未来を予想することができる。近い未来に起きることは、こうだ。僕は部長に、今まで思い出したことを話すだろう。そうしたら、行動力のある部長のことだ、きっとその電波塔に行こうと言い出すだろう。すると、そういうイベントになるとなぜか必ず現れる少女がいる。高野嬢だ。彼女はひょっこりと現れて「わたしも行く」と言い出すだろう。そして、曇天の下で三人、例の電波塔に向かうのである。そして、この予想には少しばかり自信があるのだ。
 
 塔の事例(情報部シリーズ):おわり