自分のサイトを持ちたい絵師に知ってほしいこと

絵描きが個人サイトを持つのは、絵を描くことと似ています。情熱はいつか枯れ、伝えるべき思いも見失って、それでも絵筆を握って描くように、個人サイトも必要とか理由とか、そういうのではなくて、インターネットというものが存在した時代に、自分がその中で立っていた一つの証として、そこに椅子とテーブルを置き、イーゼルにキャンバスを掛け、一枚の絵を飾るのです。そういうものだと、私は思います。

もう個人ウェブサイトの時代ではないと、ある人は言うかもしれません。でも、本当にそうでしょうか。どんなことについても言えることですが、すべてのことにはメリットとデメリットがあります。流行のサービスも決して万能ではありません。そして個人サイトも廃れてしまったわけではありません。順を追って調べてみましょう。

絵描きが普段使用するサービスには、どのようなものがあるでしょうか。Twitter・Pixiv・Tumblr・Instagramなどでしょうか。これらはSNSとかミニブログと呼ばれるものです。また”ミニ”ではないブログも現役で使われています。はてなブログ・FC2ブログなどです。このようなサービスは、個人サイトよりも手軽に更新でき、宣伝や交流もしやすいツールとして受け入れられてきました。そのうちの2つを概観します。

Twitter:短文を投稿・共有できるウェブサービスです。文章だけでなく写真やイラストも共有できるので、多くの絵描きも利用います。どんな点が優れていますか。基本的に画像の全体が表示されるので、イラストの共有に適しています。現時点で4枚のイラストを添付できるので、気軽に読める短編漫画の発表の場としても優れています。では、どんなデメリットがあるでしょうか。イラストに特化したサービスではないので、絵以外のスキルも多少求められることです。受け入れることができる人もいれば、どうしても馴染めない人もいます。

Pixiv:日本発祥のイラスト・コミュニケーションサービスです。多くの絵描きが利用しています。サブカルチャー系のイラストが多いです。どんな点が優れているでしょうか。イラストに特化したサービスなので、絵を認めてもらいやすく、また他の絵描きを探すのにも適しています。また同社が運営している他のサービスとも連携できるので、イラストやグッズを売ったり買ったりすることもできます。絵描きにとってとても利用しやすいサービスですが、やはりデメリットもあります。例えば、不適切なイラストが年齢指定なしで公開されていることがあります。

これらのサービスは共通してアカウントを作成し、そのアカウントに紐づけされた利用ユーザーとして作品を公開します。基本的に画像のフォーマットや解像度、配置などは考える必要がありません。また画像を消したいときには削除ボタンを押せば簡単に消すことができます。多くのウェブサービスにとっては基本的なことですが、個人サイトではそうではありません。個人サイトはできることの自由度が非常に高く、しかし自分で管理しなければならないことも多いのです。

個人サイトはどのように作成され、運営されているのでしょうか。それを考える前に、一般的なユーザーに個人サイトがどのように見えるかを思い出しておきましょう。まずはブラウザのアプリを起動します。次に好きな絵描きのペンネームをGoogleで検索します。ヒットした検索結果からリンクをタップすると、その絵描きの個人サイトが表示されます。

絵描きの個人サイトは、どのような内容でしょうか。ホームページがあります。プロフィールを公開するためのアバウトページがあるかもしれません。それからイラストを展示するためのギャラリーのページ、お仕事のページがあるでしょう。お問い合わせのページもあるかもしれません。長く運営している個人サイトには、リンクのページもあるかもしれません。今はあまり見なくなりましたが、ユーザーがコメントを書き込める掲示板のページがある個人サイトもあります。

このようなウェブサイトは一見すると、どうやって作られているのか検討もつかないかもしれません。しかし、どんな建造物にも基本的な材料は、木や鉄のように数種類しかありません。同じようにウェブサイトも、ごくわずかな要素で成り立っています。それはHTMLとCSS、Javascriptの3つです。英字で難しそうに見えますが、恐れる必要はありません。この中で最も重要なのがHTMLです。

HTMLとは文書をインターネットで公開できるようにするためのフォーマットのことです。テキスト形式なので、Windowsのメモ帳などで直接編集することもできますし、専用のアプリを使って作成することもできます。CSSとJavascriptはHTMLを飾り付けるものです。CSSは見た目を、Javascriptは動きを制御します。やはり、どちらもテキスト形式です。3つともテキストを手打ちで書く硬派なコーダーもいれば、これらをもっと手軽に作成しようとする人もいます。

個人サイトを手軽に作成するサービスについても触れておきます。WixやJimdoです。これらのサービスはブラウザ上で文章や画像、リンクなどを視覚的に配置することができます。おしゃれなテンプレートが用意されているので、それを使えば時間をかけずにモダンなウェブサイトを作成することができます。また前述のTumblrでもウェブサイトのようなものを作成できます。イラストレーター向けのテーマも配布されており、SANOGRAPHIXさんのIllustfolioシリーズはよく利用されています。

個人サイト作成サービスは非常に実用的です。とはいえ欠点がないわけではありません。たとえばデザインにこだわりたい人にとって、ブラウザ上でデザインするのは億劫に感じるかもしれません。1ミリ、1ピクセル単位でピッタリと合わせたいのに、マウス操作ではなかなかうまくできません。また、そのようなサービスを利用したウェブサイトは、すべてではありませんが、表示速度が遅い場合があります。ウェブサービスで作成されたサイトはどうしても内部情報が多くなってしまうので、それだけ動作が重くなってしまうのです。

HTMLに話を戻します。HTMLが広く使われるようになったとき、まだバージョン4が主流でしたが、今はHTML5に移り変わりました。CSSもCSS3に、そしてCSS4に向けて変化しようとしています。Javascriptの仕様も、時代とともに精錬されてきました。まだ完全とは言い難いですが、着実にHTML・CSS・Javascriptは記述しやすく、読みやすくなってきています。もしこれからHTMLを始めるとしても、スムーズに学習できることでしょう。

HTMLは、プレーンテキストと呼ばれるテキスト形式で作成します。そのファイル名の末尾には、ファイルを識別するための拡張子.htmlを付けます。これはコンピューターユーザーにとっては自然に行っていることかもしれませんが、日常的にスマホやタブレットしか使わない人にとっては難解なところかもしれません。モバイル端末でHTMLを作成するにはプレーンテキストを生成できる専用のアプリをインストールするか、HTMLを生成できるブラウザアプリを利用する必要があります。

HTMLを作成したら、それだけでウェブページとして見られるようになるわけではありません。共有できるようにする必要があります。しかし、どうやって共有するのでしょうか。実を言うと、インターネットに繋がっているコンピューターのほとんどは、HTMLをウェブページとして共有する機能を持っています。自分のパソコンで、それができます。自宅サーバーと呼ばれている方法です。

自宅サーバーは、大雑把に説明すると、HTMLを共有できるアプリを起動しておくことによって、自宅のコンピューター内の特定の場所に保存したHTMLファイルを、外部のブラウザから見られるようにしています。そのアプリとしてよく使われているのがApacheとNginxです。Node.jsなど特定のプログラミング言語を使ってサーバーを動作できるプログラムもあります。

自宅サーバーはもちろん一番シェアのあるWindowsでも可能ですが、セキュリティーやコストや情報量の関係でLinuxというオペレーティングシステムがよく使われます。ところで、自宅サーバーは自由度が高く、技術的にも面白いのですが、それなりのリスクが伴います。一日中稼働させるため電気代がかかります。稼働音にも対処しなければなりませんし、コンピューターがヒートアップして火事になる危険性も考慮しておく必要があります。

自宅サーバーのリスクを回避しながら、同じような自由度を手に入れる方法があります。VPSを借りることです。VPSとは仮想化された専用サーバーであり、文章で読むと難しそうですが、遠隔操作できるコンピューターをレンタルするようなものです。VPSサービスを提供しているところは、さくらのVPSやConohaのVPSがあります。VPSを借りて、それを使ってApacheなどを立ち上げ、HTMLを共有する・・・というわけです。

VPSサービスに、最初からApacheなどをインストールするオプションがある場合があり、それを利用することで大幅な作業の短縮ができます。とはいえVPSの醍醐味は自分でサーバーを立ち上げるところにある、という方も少なからずいると思います。どちらにせよVPSには自宅サーバーと同じくらいの自由度があり、そしてそれだけ管理すべきことがあります。セキュリティ面での対応も、自分で対処しなければならない場合もあり、一般的な絵描きがVPSを選ぶのは敷居が高いかもしれません。

そこで候補に挙がるのが、レンタルサーバーです。レンタルサーバーは大まかに言うとVPSの機能をウェブサーバーだけに絞ったもので、サーバーにアプリのインストールなどをする必要はなく、HTMLを専用アプリでアップロードするだけでウェブページを公開できるサービスのことです。ここまで話が長くなってしまいましたが、もし絵描きが個人サイトを持ちたいのなら、レンタルサーバーは一つの選択肢となるでしょう。

レンタルサーバーを提供しているところは、さくらのレンタルサーバー、Xserver、Mixhostなどが有料で高品質なサーバーを提供しています。無料で利用できるXdomainやFC2ホームページなどのサービスを選ぶこともできます。レンタルサーバーではなくやや敷居が高いですが、Github Pagesを使えば、無料でHTMLを共有することができます。

有料のレンタルサーバーではHTML・CSS・Javascriptの他にCGIと呼ばれるプログラムを動作させることができます。それによってサーバー側で動的にページを変化させることができるようになります。選べるプログラミング言語はサーバーによって異なりますが、PHP・Ruby・Python・Perlなどがよく使用されます。他にもメリットがありますが、サービスによって異なるのでここでは割愛します。それらのメリットが必要であれば有料のサービスを、不要であれば無料のサービスを選ぶことができます。

レンタルサーバーが個人サイトの最終地点なのでしょうか。そうとも限りません。仮にレンタルサーバーで個人サイトを運営しているうちに、自分のサイトがどんどん日記サイトになっていったとしましょう。日記を書くならブログのほうが良いと考えるかもしれません。イラストを載せるだけのサイトになったとしましょう。それならイラスト投稿サイトで十分かもしれません。

個人サイトを持つメリットは何でしょうか。それは、他のサービスに依存しない自分のメディアを持てるということです。すべてのウェブサービスは表向きはどうあれ利益のために運営されています。利益が出せなければ、サービスは停止してしまうかもしれません。でも個人サイトを持っていれば、影響を少なくすることができます。また、個人サイトはアカウントの停止を恐れることなく、良識の範囲内で自分の好きなように運営していくことができます。

個人サイトのデメリットは何でしょうか。繋がりが少ないので運営していて寂しいことです。自由度が高いすぎるため、ウェブサイト作りはいつも迷走してしまいます。デザインセンスのなさにがっかりします。管理するのが億劫です。有料のサービスを利用しているなら、ある程度の出費を必要とします。好きな絵描きさんの個人サイトが時代とともに消えてしまうことがあります。新しいサービスに目移りしてしまいます。

日本ではウェブサイトのことをホームページと呼ぶことがあります。かつての個人サイトでは、トップページで「ようこそ」「Welcome」といった文字で迎えてくれました。時代は変わってしまいましたが、個人サイトにはそういうところが少なからず残っていると思います。インターネット上の自分の場所といった感覚です。リアルを切り取ってすぐにシェアできるようになった現代には、必要のないものなのかもしれません。

個人サイトは持つべき明確な必要がなくなってしまったように感じます。仕事のためのポートフォリオとして使っている人もいますが、別のウェブサービスで十分代用できるようにもなっています。インターネットが波のように押し寄せてきたころとは異なり、こぞってウェブサイトを立ち上げる時代でもありません。数年前までは、個人サイトを持つべきだと私は主張しましたが、今はそれ声を大にして言うことができません。でも。

理由がない、必要がない、それでも個人サイトを持つのは、それだけで一つの個性と言えるのかもしれません。そこには寂しさがあり、稚拙さがあり、取り残された空虚さがあり、小さな発見と工夫があり、管理しきれない煩雑さがあり、消えてしまいそうな儚さがあり、ダサくて、不便で、取り去ってしまいたいような、でも残しておきたいような。

絵描きが個人サイトを持つのは、絵を描くことと似ています。情熱はいつか枯れ、伝えるべき思いも見失って、それでも絵筆を握って描くように、個人サイトも必要とか理由とか、そういうのではなくて、インターネットというものが存在した時代に、自分がその中で立っていた一つの証として、そこに椅子とテーブルを置き、イーゼルにキャンバスを掛け、一枚の絵を飾るのです。そういうものだと、私は思います。

記事のタイトル「自分のサイトを持ちたい絵師に知ってほしいこと」| 公開した日付()| 更新した日付(2018年7月5日)| 更新した回数(4回)