音楽をさらに楽しむための3つの方法

創作///

この記事では私たちが聴いてこなかった音について考察します。その後、どうすればより音楽を楽しめるようになるかを考えます。

 音楽を楽しむ能力は訓練できる

きらめく星空を見上げると、その美しさと壮大さに多くの人は感嘆の声をあげます。しかし、その美しさを誰もが感じられるわけではありません。繊細で情熱的なバイオリンの演奏に多くの人は心を揺さぶられます。しかし、誰もがその音色に感動できるわけではありません。生まれてから一度も、満点の星空を見たことのない子どもたちがいます。その子どもたちが初めてそれを見たときの感想は、大人たちの期待していたものとは違うかもしれません。真っ暗な丸天井に光の粒がきらめいていることが、美しいことなのかどうか分からないのです。

美しいと感じるのは、人間だけに与えられた特別な能力です。動物にはできません。音楽についても同じことが言えます。生まれたときから、サイン波などの単純な音しか聴いてこなかったとしたら、朗々としたオペラの歌声からも美しさを感じ取ることはできないでしょう。音楽を聴く能力はある程度、訓練して得られるものと言えるからです。この記事では私たちが聴いてこなかった音について考察します。その後、どうすればより音楽を楽しめるようになるかを考えます。

音楽を聴こえなくする3つの要因

1.言語によって音を識別する脳の働きが異なる

科学者が脳について研究して明らかになったことに、作り変えた形がそのまま残るという粘土のような性質をもっていることがあります。何かを経験したときに、それはそのまま残り記憶を形作っていきます。この特性を可塑性といいます。脳がこのような特性を持っていることを念頭に置いて、私たちがどのように音を聴いているのか調べてみましょう。

クラシック音楽を聴くとき、私たちの脳は右半球が活発に働きます。これは右脳の働きとしてよく知られています。それに対して話を聴くときは脳の左半球が働きます。これは左脳の働きとしてよく知られています。ここでもう一歩踏み込んでみると、驚くべき事実が隠されています。日本人と西欧の言語圏の人々とでは、音に対する脳の反応する部所が異なるのです。それは角田忠信氏や菊池吉晃氏により研究にされ、明らかになりました。西欧の言語圏の人々は、自然の音つまり川のせせらぎや雨音などを聴くときに脳の右半球が反応します。また泣き声やハミングなども同じように右半球が反応します。それに対し日本人は、それらの音を聴くとき脳の左半球が反応します。

このような違いはどこで生じるのでしょうか。『倍音─音・ことば・身体の文化誌』という本によれば、それは育ってきた言語環境にあります。日本語は母音だけでも意味のある言葉を作れる言語です。また母音の組み合わせで、『言う』『会う』などといった意味のある言葉を作れます。6才から9才までの間に、このような母音を主体とした言語を使うことにより、日本人の脳のような反応を示すようになるのです。これと同じ性質をもった言語にポリネシアの民族の言語があり、同様の結果が出ています。

これらの事実を考えて分かることは、私たちの音の聴き方は育ってきた環境によって大きく異なっているということです。自分とは全く違った『視点』で音を聞いている人たちがます。全ての人類の中にすべての聴き方が存在しているのでしょうか。また経験によって形を変えていく脳は音の世界にどれほど対応してゆけるのでしょうか。地球上には、私たちの知らない音の聴き方があり、未だ感動を発見していない音も確かにそこにあるのです。

2.科学技術によって取り除かれる音がある

私たちを取り巻く音の環境はめまぐるしく変化しています。ピアニストの演奏は録音されるようになり、レコードやカセットは店に行ってもなかなか見つからなくなりました。音声はきれいに加工して圧縮され、ネットワークを介して大勢の人々に配信されています。音を録音するときや圧縮するときに、カットされてしまう音があります。また音をスピーカーから流す段階で聴こえなくなってしまう音があります。サンプリング周波数について考えてみましょう。

サンプリング周波数とは1秒あたりに記録するデータの数のことです。現在の標準的なサンプリング周波数は44.1kHzで、数字が大きいほどきめ細かい音を録音できます。サンプリング周波数を超える音は記録することができません。44.1kHz以上の音は人間の耳では高すぎて聴こえないとされ、データにされることなくカットされます。(※録音するときには、もっと高いサンプリング周波数が使われることがあります。データ配信などでは、もっと低いサンプリング周波数が使われることがあります。)

圧縮についてはどうでしょうか。圧縮するときも人の聴き取れない音を省いて情報をコンパクトにします。圧縮のレートによってはノイズが入ることもあれば、音質の違いをほとんど感じないこともあります。スピーカーによっても、音は変わってきます。比較的小さなイヤホンと大きなスピーカーとでは、出せる低音の範囲が異なります。このように音波としての音には、現代の機器を通すことにより聴こえなくなる音が存在します。それでも私たちはオーケストラの録音をオーケストラの演奏として楽しめます。それはなぜでしょうか。人工内耳を例に考えてみましょう。

聴力を失った人が、人工的に蝸牛に電気信号を送り、音を聴くという技術があります。これを人工内耳といいます。蝸牛とは、耳の中にあるカタツムリの形をした器官のことで、音を周波数に分解する働きをします。人工内耳では、この蝸牛に電極を接触させることにより音を伝えています。人工内耳を使用したある人は、慣れないうちは人の声もロボットのように聴こえる、音楽もはじめはよく分からない、でも慣れてくるとオーケストラも楽しめるようになった、と語っています。(※人工内耳の効果には個人差があります)

人工内耳で音を聴くのと空気の振動から音を聴くのとでは、与えられる聴覚情報が違います。それでもどちらも音楽を楽しめるなぜでしょうか。目で見た情報は脳で処理されて映像として見ることができます。同じように、この場合も脳の働きによるものだと推論できます。音の世界は絶えず変化していますが、幸いにも私たちはそれらを楽しむことができます。そして、聴こえてこない音、楽しめるはずの音があふれるようになれば、それに合わせて新しい音の楽しみ方を発見してゆけるでしょう。

3.聴力によって人それぞれ聞き取れる音が違う

聴覚障害を持つ人の中には、歌声はかすかに聴こえてくるという人がいます。その人は全く音が聴こえないわけではありません。それでも全体としては聞き取ることができません。そのような人たちも、視覚を通して歌を楽しむことができます。手話による歌です。聴覚で歌を聴く健聴者とは楽しみ方が異なりますが、手話の歌に見られるリズムや流れといった要素は、まさに音楽の楽しみ方そのものと言えます。

盲ろう者は音が聞き取れず目も見えません。どのようにコミュニケーションを取るのでしょうか。触手話という方法を使います。触手話とは手で触って読み取る方法です。話者が手話を使い、その手の動きを触って読み取るのです。また話者に手を導かれ、手話を再現してもらうこともあります。このような手段を使って意思を通わせることができます。さらに、この集団で歌うを楽しむこともできます。

健聴者であっても、人によって聴こえ方は異なります。左右の聴力が若干異なっていることもあれば、聴こえにくい周波数がある場合があります。また高齢になるにつれて高音が聴き取りにくくなります。同じ場所で同じ演奏を聴いていたとします。しかし同じように聴こえているとは限りません。聴こえない人もいるかもしれません。

確かに現代の世の中では、十分に感動を分かち合うことはできないかもしれません。しかし、異なる仕方であっても音楽を楽しむことができます。そして聴覚障害がなくなる未来に私たちがいるならば、音楽の楽しさをほんとうの意味で分かち合うことができ、その喜びは本当に大きなものになるでしょう。

音楽をさらに楽しむ方法

音楽は聴こえているものがすべてではありません。聴こえない音や聴くことができない音があります。また将来に聴こえるようになる音があります。音楽の楽しみ方もひとつではありません。今まで雑音と感じていた音にも美しさが秘められているかもしれないのです。ではどうすれば、より音楽を楽しめるようにできるでしょうか。

健聴であれば、耳を大切にすることができます。あまりに大きな音を聴いて耳を痛めることを避けられます。そうすればこれからも音を楽しんでいけるでしょう。科学技術によりカットされてしまった音は、自然の中に溢れています。鳥のさえずりや川のせせらぎに耳を傾けることができます。光が目を休めるのと同じように、自然の音に耳を澄ませるなら、耳も心もやすらぐことでしょう。静けさを楽しむこともできます。お腹が空かせると料理が美味しくなるように、静けさを味わい楽しむなら、音楽がより喜ばしいものとなるでしょう。

楽器を覚えるなら、音楽がより身近になります。すでに楽器を習っている人も、新しい楽器にチャレンジすることができます。歌に歌詞が付いているなら、歌詞の意味を考えながら聴くことができます。歌詞は心に染みこんでゆきます。私たちを励ましてくれる歌を見つける助けにもなるでしょう。クラシック音楽がお好きですか。楽譜の読み方を覚えて、それを見ながら聴いてみると、作品からより深い味わいを感じ取ることができるでしょう。

音の世界は広がっています。聴いたことのない美しい音楽と出会うこともあるでしょう。音楽は楽しいひとときをさらに楽しくしてくれます。悲しいときには気持ちを和らげくれます。音楽は生活に彩りを添えてくれます。それでは、この素晴らしい贈り物に感謝しつつ、これからも音楽を楽しんでゆけますように。